新東亜が潘基文氏の資質検証 過熱気味のブーム冷ます

盧氏に「義理を欠く」と指摘

 「国連史上最低の事務総長」と欧米のメディアからこき下ろされている潘基文(パンギムン)氏が韓国の次期大統領候補に擬せられている。世論調査では野党共に民主党の文在寅(ムンジェイン)元代表を10ポイント引き離してトップを走るといった状況だ。

 潘氏へのラブコールが沸いているのは、なによりも「韓国人初の、いや東洋人初の国連事務総長」という「肩書」によるものだ。東亜日報社が出す総合月刊誌「新東亜」(7月号)が「特集潘基文」を載せている。その中で、駐日大使を務めた羅鍾一(ナジョンイル)氏が、「潘氏の国連での評価は関係ない。韓国人にとって、単に彼が事務総長に選ばれたことだけでも成功だと感じている。なので、彼への批判に対しては喜んで目を瞑る」と述べる。

 潘氏は韓国で自身を「世界大統領」と表現したが、韓国から“世界的指導者”を出した誇らしさと、その人物ならば大統領にふさわしいという、もっぱら「肩書」だけの評価で候補に挙げられているわけだ。潘氏はもともと外交官で政治経験はない。こうした政界外の人物に頼らざるを得ないのは、韓国政界に傑出した指導者がいないからでもある。

 とはいえ、潘氏が大統領にふさわしいかどうか、チェックは必要だ。支持ムード一色の中で、同誌は「外交官として、事務総長として、彼が歩いてきた道を見なければならず、緻密な検証作業が必要だ」と指摘する。過熱気味の潘基文ブームを冷まそうというのがこの企画の意図である。

 同誌は世界の潘基文評を紹介する。英紙デイリー・テレグラフは、「彼は鈍く、はっきりと発言できず、国連史上最悪の事務総長と呼ばれている」と評し、英誌エコノミストも「国連の欠陥それ自体を象徴する存在」「常任理事国が特別に反対する理由がなかった無難な人物」と低評価だ。

 さらに、潘氏は縁故主義を助長させた。職員に多くの韓国人を登用し、さらには女婿を重要ポストに就けて批判されもしている。

 そのほか、人権問題ではサウジアラビアの“脅迫”に屈して同国をリストから外し、西サハラに展開する平和維持活動(PKO)を「占領」と言って、モロッコ政府から抗議を受け、中国の人権状況には口を閉ざすなど、数々の失策を同誌は紹介する。

 だが、最も潘氏の事務総長としての「公平中立」が問われたのは昨年の中国「抗日戦勝利パレード」への出席だ。これについて同誌は何も言及していない。日韓問題ではしばしば韓国寄りの発言で、事務総長としての分限を超えた言動が多く、天安門出席はその最たるものだったが、韓国誌としては、これは取り上げにくいのだろう。

 事務総長としての能力、評価はこのように広く知られているが、そもそもどうして潘氏が事務総長に推薦されたのか、競争に勝って「世界大統領」の椅子に座ったのかは伝わっていない。

 特集には「潘基文背信論」の原稿がある。いわば“裏切り者”ということだ。事務総長は五大陸の持ち回りで選ばれる。そこで、当時の韓国政府は外相だった潘基文氏を推薦した。盧武鉉(ノムヒョン)大統領の時だ。

 だが、潘氏は「自身が盧武鉉派の人物と見られることを避けた」という。事務総長選出に影響力の強い米国は盧大統領を“急進左派”と見ていた。その推薦を受けることは“不利”だと計算したのだろう。しかし、盧武鉉政権は韓国人事務総長実現には相当な努力を傾け、潘氏にも便宜を図った。その“おかげ”でポストに就きながら、潘氏の行動は「義理を欠く」というのである。

 潘氏は訪韓時に盧武鉉大統領の墓を訪ねなかったのみならず、対立陣営のセヌリ党の候補として浮上している。この点を盧氏の流れをくむ野党は「背信」と言っているのだ。今年いっぱいで任期が終わる。来年には「大統領候補」として韓国に“凱旋”するのかどうか注目である。

 編集委員 岩崎 哲