韓国各誌がトランプ氏分析、動乱の再発誘う米孤立主義

中国の出方にも強い関心

 米大統領選では共和・民主両党の候補が固まった。共和党はドナルド・トランプ氏、民主党ではヒラリー・クリントン元国務長官がそれぞれ党大会を経て、大統領選を戦うことになる。

 「核保有国」を宣言した北朝鮮と38度線を挟んで対峙する韓国にとって、安全保障の観点からも米国大統領に誰がなるかは重大関心事だ。特にトランプ氏は「安保タダ乗り」論を持ち出し、在韓米軍駐留費の負担増だけでなく、「米軍撤退」「韓国核武装論」など極端な主張を繰り返しており、もし同氏がホワイトハウスの主になれば、韓国はこれまでにない安保環境に投げ込まれることになる。

 言論界でも高い関心が注がれている。東亜日報社が出す総合月刊誌「新東亜」(5月号)では国際問題アナリストの李チャンフン氏による「同盟亀裂に備えよ」との記事が掲載された。

 李氏は、トランプ氏が韓国の核武装論まで持ち出したのは「外交無知」からきたものではなく、「高度な選挙戦略から出ている」と分析している。つまり、韓国や日本の核武装を容認すれば、国際社会、特に中国は強く反発する。日韓を核武装に向かわせないためにも、中国は北朝鮮をコントロールせざるを得ない。また日韓の核武装など、国際社会が許すはずもなく、現実には両国は自国防衛にもっと傾注せざるを得なくなる。結果、米国の負担が減る。そうした読みの上での過激発言だという解釈だ。

 ただし、トランプ氏の「米国優先主義」「現実主義的孤立主義」は韓国動乱のきっかけとなった「アチソン・ライン」を連想させると警戒感も示している。「1950年、アチソン国務長官が米国の極東防衛線から韓半島は除外されると発表すると、スターリン(ソ連共産党書記長)と金日成(キムイルソン)は、米国は韓半島の戦争に介入しないと誤認して南への侵略を決心した」ことがあったからだ。

 核武装容認について「月刊朝鮮」(5月号)は現実的な視点を示す。韓国の核武装は日本、台湾の核開発・武装を招くといういわゆる「核ドミノ」について、「心配はない」との見方だ。

 慶南大極東問題研究所が主催したセミナーで、高麗大の李東宣(イドンソン)教授は、「米国は韓国、日本、台湾の核開発を防ぐのに十分なレバレッジ(テコ)を持っているから、核ドミノ」は起こらず、そのため米国は「北朝鮮と協議に入る可能性もない」との見方を示した。「米大統領に誰がなろうと、米国の対北朝鮮政策に大きな変化はなく、妥協もない」(李教授)というわけだ。

 崔鍾健(チェジョンゴン)延世大教授も、「北朝鮮制裁以後の米朝関係の変化より、むしろ、米大統領選以後の米韓関係の変化がより重要だ」と指摘する。

 中国の対北朝鮮外交にも変化はないとみるのは、李東律(イドンユル)同徳大教授である。「中朝関係の現象的親疎で、中国の対朝政策の変化を予断するのは適切ではない」と指摘する。「中国は両国関係と北の核問題を分離して対応してきている」とし、「核問題に断固たる立場を堅持するからといって、必ずしも北朝鮮との関係全般を悪化させるものではない」との見方だ。

 むしろ、今後「中国外交の焦点は米・日など対強大国外交が中心となり、韓半島の戦略的価値はその従属変数に格下げされる」(李東律教授)ことの方が韓国にとって問題だろう。

 北朝鮮の核開発、中国の大国化が韓国外交に大きな影響を及ぼしてきた。そこに米大統領選という同盟国の政治状況の変化が加わり、韓国は厳しい対応を迫られている。

 「月刊中央」(5月号)は「トランプ氏が敗北しても『トランプ現象』は残る」と指摘する。ジェラルド・コスティ米コロンビア大学大学院教授は、「彼の主張を大統領当選者がそのまま無視して見過ごすには難しいほど世論に影響を及ぼすだろう」として、「誰が大統領になろうと、同盟国の役割を要求する米国の声は大きくなる」と同誌に述べている。まさに韓国は大きな変化への対応を迫られているわけだ。