韓国地下組織事件に北工作機関と朝鮮総連の影

 今年9月に内乱陰謀罪などで逮捕・起訴された韓国極左野党・統合進歩党の李石基議員が率いてきたとみられている地下組織「R・O」が、北朝鮮対外工作機関225局と在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)と事実上連携していた可能性が強まっている。近年の韓国工作事件ではこの二つの組織がたびたび登場。その背景にいったい何があるのだろうか。
(ソウル・上田勇実)

日本通の康寛周氏が関与か

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韓国地下組織R・Oを率いていたとみられる統合進歩党の李石基議員(右)。写真は逮捕前の今年8月、捜査に反対するデモ集会に参加したときのもの。左は李正姫党代表

 李議員の事件では、R・Oが北朝鮮の韓半島赤化統一路線に同調するかのように韓国国内で破壊工作を企図していた疑いなどが発覚し、現在、公判中。韓国政府は事の深刻さに鑑み、進歩党に対する政党解散審査を憲法裁判所に申請した。事件の最大関心事は北朝鮮から指令があったかという点だ。

 在韓情報筋によると、このほど韓国捜査当局が2011年3月から中国で225局の工作員と接触したり、総連関係者と会っていたなどとして国家保安法違反容疑で逮捕した左翼系舞踊団体代表で統合進歩党の党員が、R・Oのメンバーとたびたび接触していたという。また李議員自身も昨年4月の総選挙で国会議員に初当選した後、複数回にわたり日本を訪問していることも分かっている。

 これらのことは「北朝鮮225局」「進歩党党員」「R・O」という“点”が韓国工作という目標の下、一つの“線”で結ばれていた可能性が濃厚になったことを物語っている。

 韓国では一昨年、「旺載山」という地下組織が北朝鮮からスパイ潜入の手引きや国政選挙介入、軍機密情報収集などに関する指令を受け、一部を実行に移していた事件が明るみとなり波紋を広げたが、この時も指令元は225局で、朝鮮総連も関わっていたことが判明している。

 225局とは韓国へのスパイ潜入や韓国での地下組織結成、日本への浸透工作などを手掛ける朝鮮労働党対外連絡部が前身。09年2月25日に金正日総書記が組織強化を命じて新たに改編されたため225局と名付けられた。表向きは内閣傘下だが、実際は国防委員会直属で金総書記、現在は金正恩第1書記が直接命令を下す。

 韓国地下組織をめぐる225局の動きに朝鮮総連がたびたび関わっているのは、225局トップの康寛周(通名・姜周一)局長が統一戦線部副部長時代に築いた朝鮮総連の対日工作ネットワークをそのまま225局に移管したためだ。昨年、225局が統一戦線部傘下に編入されようとしたが、康局長がこれを頑(かたく)なに拒否。朝鮮総連から吸い上げられる資金を手放したくなかったことも理由の一つとみられている。

 特に225局は現在も数百人の工作員を日本に潜入させているといわれ、協力してもらう人脈や韓国潜入のための迂回基地を作ったり、日米に関する機密を入手しているほか、国籍を韓国や中国などに“洗浄”した後、朝鮮総連関係者などと接触している可能性が高いとみられている。

 党作戦部(現、偵察総局)出身の元工作員は本紙に「80年代初め、大学同期だった連絡部所属の対日工作員が日本に6カ月間滞在して帰ってきたという話をしていた」と述べた。工作のためその国の国民に成りきる「敵区化教育」は、すでに数十年に及んでいる。

 旺載山やR・Oなど225局が朝鮮総連と協力して築いた韓国の地下組織が捜査当局によって次々に発覚しているが、「金第1書記に実績を見せ、信頼を勝ち取る必要がある」(北朝鮮問題専門家)工作機関としては今後も工作の手を緩めることはなさそうだ。