韓国教科書国定化、政権退陣デモに北朝鮮の影

「歴史クーデター」扇動文が酷似

700

14日、ソウル中心街で行われた政権退陣デモで暴徒化した参加者に放水で防戦する警察

 「朴槿恵退陣!国定化中断!」
 先週末、韓国の朴槿恵政権が進める労働改革や中学・高等学校歴史教科書の国定化に反発した労働組合のメンバーら約6万8000人(警察推計)がソウル中心街に繰り出した。2008年、米国産牛肉の輸入再開をきっかけに起こったデモ以来の大規模な反政府運動だ。

 国定化に反対するプラカードを持っていた京畿道に在住する高校1年の男子生徒に参加理由を聞くとこう答えた。

 「教科書が国定化されたら内容が今より親日的になるんじゃないか。北朝鮮を美化しているのが悪いと言うけれど、北朝鮮が僕の家族に直接被害を与えるわけでもないのになぜ批判的に教えないといけないのか分からない」

 すぐ横にいたクラスメートの女子生徒も「国定化されたら民主主義が後退するような気がする。今の大統領はあまり信じられないし…」と話す。

 朴政権は、現行の教科書検定制度下では歴史教科書「韓国史」の記述を修正するには限界があると判断している。左翼史観の学者たちが執筆する 教科書は以前から問題視されていたが、保守政権になってもこうした教科書を検定不合格にさせにくいという制度上の矛盾を抱えていた。国定化は 教科書左傾化の是正であり、朴大統領が強調する「非正常の正常化」の一つだ。

 しかし、国内左派がこれに猛反発し、過度な政治主張や戦闘的デモで有名な全国民主労働組合総連盟(民主労総)が主導して左派系の諸団体に「集結」を呼び掛け、今回の大規模デモに至った。

 デモに先立って彼らは朴政権に11項目の要求を突き付けた。その中には「教科書国定化中断」はもちろんのこと、「国家保安法廃止」や「韓米日3カ国軍事同盟の中断」など北朝鮮が韓国を無力化するために求め続ける定番メニューが並んでいる。

 デモの現場には親北反米の偏向的な理念教育を押し付けることで知られる全国教職員労働組合(全教組)の旗もはためいていた。全教組は国定化 について「親日独裁を美化し、維新(父、朴正煕元大統領の独裁的政治体制)回帰を目論(もくろ)む歴史クーデター」(先月29日)と非難しているが、北朝鮮国営メディアも「親米・親日独裁を美化し、これを復活させようとする歴史クーデター」(同17日)と糾弾していたばかりだった。

 こうした韓国保守政権打倒用の語録をめぐる韓国左翼と北朝鮮の奇妙な酷似こそ「北朝鮮の扇動に付和雷同し、国定化反対闘争を展開する勢力」(柳東烈・元韓国治安政策研究所研究官)の存在を物語っている。

 デモ参加者たちは片側6車線の大通りを占拠し、外資系が所有する高層ビルの敷地内にも溢(あふ)れかえっていた。約2㌔先の青瓦台(大統領府)への侵入を試みようと、これを阻止するため築かれた警察バスのバリケードを突破するため鉄パイプで窓を破損。まるで運動会の綱引きでもするようにバスに括(くく)り付けたロープを大勢で引っ張り、街路樹にぶつけた。明らかに違法行為である。

 警察は放水車による放水やカプサイシン(催涙スプレー)の散布で防戦し、一部でデモ隊と衝突。暴徒化した50人余りを連行した。結局、日付が変わる頃になってようやく騒ぎは収まった。

 デモの最中、現場近くのホテルで「韓国史」執筆陣の一人である公立大学の教授に会った。教授は窓越しにデモの様子を眺めながらこうつぶやいた。

 「それでも私は史実と政府のガイドラインに忠実に書いたつもりだが、こんな結果になるとは。結局、北朝鮮という国があるから韓国の国論が極端に二分され、過激デモが絶えず、民主主義も未熟なんだ」

(ソウル・上田勇実、写真も)