“天才女子高生”にだまされた韓国社会

米国名門大2校に「合格」

学歴至上主義の歪み消えず

 米国名門大2校にダブル合格したとして話題になった韓国出身の女子高生が、実は合格は嘘(うそ)だったことが判明し、ちょっとした物議を醸している。事件は、学歴にこだわる親の過度な期待や社会風潮が受験生を極限まで追い込んでしまう、韓国社会の歪(ゆが)んだ一面を改めて浮き彫りにした。 (ソウル・上田勇実)

親の過度な期待で自殺も

ソウルの大学が最優先 地方大進学は落武者気分

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韓国の大学共通入試を前に子供の合格を寺院で祈願する父兄たち(昨年11月)=韓国紙セゲイルボ提供

 米バージニア州にある進学校トーマス・ジェファソン科学技術高校3年の韓国人女子高生が、ハーバード大学とスタンフォード大学の入学試験に合格し、2年ずつ両校に通う特別プログラムに参加することになったと現地韓国系メディアが報じたのは先月初めのこと。これをきっかけに、韓国 でもこぞって「天才少女の快挙」などと報じられた。

 ところが、現地在住の韓国系父兄がプログラムに対し問い合わせたことをきっかけに、そのような制度は存在しないことが発覚。合格証明書も偽造だったことがばれ、ハーバード、スタンフォードいずれにも合格の事実はなかったことが分かった。美談が自作自演の詐欺に転落してしまったのだ。

 なぜ女子高生はこんな嘘をついたのか。背景にあるのは韓国社会にはびこる行き過ぎた学歴至上主義だ。

 韓国はまだ極端な学歴社会で、価値観の多様化が遅れている。高給が保証されているサムスンなどの大企業に入るか、医師や弁護士など高級専門職に就いて安定した収入とゆとりの時間を持つことこそ「最も幸せな人生」と考える風潮が根強く、子供たちは幼少時から親ぐるみで競争の激しい受験レースを走らされる。

 「幸せ」をつかむにはソウル大学を頂点とする有名大学に入ることが必須と考え、ソウルにキャンパスを構えるいわゆる「イン・ソウル」の大学以外は格下扱いされる。一部の主要国立大学を除くと、地方大学行きはさながら落武者気分と言われる。新卒の就職難が深刻化する近年、この傾向は強まる一方だ。

 学歴至上主義で受験生たちが受ける心理的な圧迫感は、実は「できない子」よりも周囲の期待が高い「できる子」の方にもっと重くのし掛かっている。何年か前、成績が学年でトップクラスだったある高3男子が親から1番になることを執拗(しつよう)に求められ、ついには1番になったが、精根尽き果て自殺するという痛ましい事件がインターネット交流サイト(SNS)上で話題になった。遺書には「これで満足かい」と記されていたという。

 さらに問題は、学歴至上主義が親の自己満足、代理満足である場合が少なくないことだ。子供が有名大学に通うことを公然と自慢したり、その大学の序列で世間体を気にしたり、親自身のステータス維持の「ツール」のように見なしたりするところがある。突き詰めて言うなら、文官が武官より偉いと認識されたり、周囲が自分をどう評価するかが自分の価値を決めると考えたりする李氏朝鮮時代の精神文化にまで遡(さかのぼ)ることができよう。

 米名門大への合格を目指していた女子高生も、親の期待に応えなければならないという一種の強迫観念にかられ、実力で正々堂々と合格することを忘れ、大学の肩書だけに目を奪われるようになった可能性がある。「子供の名門大合格を自身の(目的)成就と信じて執着している間に、子供の内面が崩れはしまいか気を配る必要がある」(大手紙・東亜日報)状況だったのだ。

 女子高生の父親は事件後、「父親である自分が娘の苦痛をあおってしまったと深く反省している」と心境を明らかにし、「娘の治療」が必要だと強調した。専門家は、女子高生が虚構の世界を真実と信じ込み、嘘を常習的に繰り返す人格障害、リプリー症候群を患っている可能性があると指摘 している。

 学歴至上主義はこれまで韓国社会にさまざまな歪みをもたらしてきた。有名人を含め頻繁に起こる学歴詐称や論文盗用はその典型例だ。2005年には韓国美術界のシンデレラなどともてはやされた美人大学助教授が、名門の米エール大学で博士号を取得したという学歴が嘘だったことが分かり、「高卒のニセ博士にしてやられた」と大騒ぎになったことがあった。

 また韓国に亡命したある脱北者が、北朝鮮の最高学府である金日成総合大学(略称、金大)を卒業したという学歴が嘘だったことが公になるのを恐れ、韓国にある同大学の同窓会に「自分が韓国で生きていくには金大卒だったということにしておいてほしい」と懇願し、見て見ぬふりをしてもらったという世知辛い話もある。