日韓首脳会談の実現探る 朴大統領「政府レベルで対応中」

米の懸念や日中会談で焦りか

 日韓首脳会談の実現可能性がにわかに高まっている。歴史認識を理由に開催に慎重姿勢を崩さなかった韓国の朴槿恵大統領が、日韓関係悪化を懸念する米国に配慮し、対日姿勢を軟化させているのがその理由。ただ、結局は中国を交えた3カ国の枠組みになる可能性も排除できない。(ソウル・上田勇実)

中国交え3カ国の可能性も

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13日、日韓経済人会議出席のため訪韓し、青瓦台で朴大統領と握手を交わす佐々木幹夫日韓経済協会会長=韓国大統領府提供

 先週訪韓した経団連の榊原会長は青瓦台(大統領府)で朴大統領と会談し、日韓首脳会談の開催を促した。これに対し朴大統領は「首脳会談の実現については今、政府レベルで対応中。よい結果が出ることを期待する」と述べたという。

 恐らく朴大統領が日韓首脳会談についてこれまで公式的に言及した内容としては、最も前向きなものだった。榊原会長は、昨年12月の訪韓時での朴大統領の印象と比べ、今回は「前にも増して友好的」であり、「前向きな動きが出ている」と述べている。

 就任以来、いわゆる従軍慰安婦問題で日本側が「誠意ある行動」を取らない限り、首脳会談には応じないという「対日原則」にこだわってきた朴大統領が、一転して対日軟化にかじを切るのか関心を集めている。

 この朴大統領の“変化”には二つの理由が考えらる。まず米国への配慮。日韓関係悪化の長期化に対し、米政府はかねて懸念を表明してきた。日韓が「歴史」でいがみ合っていては暴走する北朝鮮や力で現状変更を試みる中国に効果的に対応することができない。「そろそろよりを戻して」というのが米国の本音だ。

 今週、ケリー米国務長官が訪韓し、尹炳世外交相と会談する。また来月には朴大統領が訪米し、オバマ大統領との首脳会談に臨む。韓国としては、日本との関係改善に向けて何もしないまま米国との会談をこなすことはできない。

 もう一つは、2度目の日中首脳会談の実現である。中国の習近平国家主席は先月、バンドン会議60周年行事出席のためインドネシア・ジャカルタを訪問した安倍晋三首相と2度目の首脳会談を行った。韓国はこの時、「歴史」で共闘していたはずの中国に「ふられた」ようなショックを受けたといわれる。

 これは“変化”の理由というより環境整備だが、朴大統領の名誉を毀損したとして起訴された産経新聞前ソウル支局長に対する8カ月に及んだ出国禁止措置が解除され、日韓関係のトゲも一つ抜かれた。

 先の安倍首相の訪米で日米の親密ぶりが世界にアピールされると、韓国では「外交的孤立」を危ぶむ声が高まった。韓国が「歴史」で硬直した外交をしているのをよそに周辺国同士による外交がどんどん行われたためだ。

 通信社・聯合ニュースによると、外交省は対日外交を見直すタクスフォースを立ち上げ、定期的に対応策を協議しているという。

 日本による「歴史挑発」にどう対応するのかという旧態依然とした協議だけでなく、歴史認識と安全保障への対応を区別する「ツートラック外交」や、政治で関係が悪化しても密接な協力関係にある経済まで悪影響が出ないようにすべきだとする「政経分離論」などもテーマになった可能性がある。

 識者の間でも対日外交見直し論が出ている。駐日大使を務めた孔魯明元外相は先日、同省傘下の国立外交院外交安保研究所が開催した会議で「歴史に埋没してはならない」と述べ、同じく元駐日大使の呉在煕氏は「未来志向的に両国関係を発展させていく中で歴史問題を長期的に解決すべき」だとの見解を示した。

 反日の急先鋒だったマスコミは、関係悪化の原因はあくまで日本側にあるという「日本悪玉論」が依然として主流だが、「悪化の一途をたどってきた韓日関係にようやく変化が表れ始めた」(中央日報)という期待感もにじませている。

 日韓首脳会談がもし開催されるとしたら、それはいつか。来月22日は日韓国交正常化の根拠となる日韓基本条約が調印されてからちょうど50年の日だ。本来ならその前後あたりがふさわしいが、朴大統領の訪米があるため、「50年」が有効な年内が一つのメドになりそうだ。

 ただ、尹炳世外相は最近の韓国紙のインタビューで、今年後半の最大目標を「日中韓首脳会談の開催」と述べている。結局は、中国を交えた3カ国の枠組みになることを示唆した発言だ。