性道徳より性解放が時流? 韓国で62年ぶり姦通罪廃止

モーテル、避妊薬、登山用品…

「特需」期待する業界も

 儒教文化の影響を色濃く残す韓国で、このほど配偶者の不倫を処罰してきた姦通(かんつう)罪が62年ぶりに廃止され、さまざまな議論を呼んでいる。韓国では 長く姦通罪が不貞の歯止めとして一定の効果があると認識されてきたが、廃止には女性を中心に戸惑いも見られる。(ソウル・上田勇実)

憲法裁判所が違憲判決

20~30代世論調査

支持男性「浮気は犯罪でない」 反対女性「国による処罰必要」

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8日、ソウルの冠岳山で登山を楽しむ市民。姦通罪廃止で登山用品の売り上げ増が見込まれている(写真提供・韓国紙セゲイルボ)

 韓国憲法裁判所は先月、同国刑法の姦通罪について9人の裁判官のうち7人が「違憲」、2人が「合憲」と判断し、6人以上が違憲と判断した場 合に適用される即時廃止条項に従い、姦通罪は廃止された。

 「違憲」判断の理由として7人の裁判官は「性関係の自己決定権やプライバシーの自由に対する侵害」などを挙げている。一方、「合憲」判断の 2人の裁判官は「家族の維持・保護を破壊する行為を個人の性関係の自己決定権を理由に容認するのが正しいか疑問」だとした。

 韓国では過去に4回、姦通罪が審理されたが、いずれも合憲と判断され、存続してきた。一つ興味深いのは、合憲理由に宗教的価値観が含まれている点だ。

 最初の1990年の判決文は「旧約聖書の(モーセの)十戒にも姦通が禁止されている」ことに言及し、最後の2008年は「姦通罪はわが民族 最初の法律である古朝鮮の8条法禁から存在した」と紹介している。

 今回、憲法裁は姦通罪の廃止が「性道徳の乱れ」につながることへの憂慮を認めながらも、「最近急増する個人主義と性解放的な考えが広がった」という社会的変化を考慮したと明らかにした。これは韓国司法が、性道徳より性解放が時流だとの見解を示したものとも言える。

 姦通罪廃止に韓国世論の反応はさまざまだ。特に男女で正反対の際立った違いを見せている。結婚情報会社ドューオが20代から30代の男女を対象 に実施した世論調査によると、姦通罪について男性の66・3%が「廃止すべきだ」と答えたが、逆に女性の62・3%は「維持すべきだ」と答えた。

 廃止論者の男性のうち、その理由として最も多かったのは「不倫は犯罪行為ではない」(32・8%)。一方、維持論者の女性は「不倫に対する 国の強力な刑罰が必要」(22・5%)を理由に挙げた人が最も多かった。

 ここからは、自分が不倫しても“免罪符”があってほしいと望む傾向がある男性に対し、不倫をされて離婚の悲劇に見舞われたくないと思う女性 という立場の違いが浮かび上がってくる。ただ、韓国では近年、既婚女性の不倫も増加しており、実は姦通罪廃止の“恩恵”にあずかるのは男性ばかりでなく、少なくない女性も、とみられている。これも性をめぐる韓国社会の変化と言えるかもしれない。

 マスコミはおおむね今回の判決を歓迎している。最大手紙の朝鮮日報は「姦通行為は犯罪というより夫婦間の貞操義務を守るべき結婚という契約に対 する違反だという認識が広がっている」(社説)とし、東亜日報も「国家が『国民の布団の中』に介入する時代は終わった」という見出しで社説を 出した。

 だが、「良からぬ副作用」を心配する声も上がっている。韓国紙ヘラルド経済は今回の姦通罪廃止で「笑っている」人たちがいると指摘する。

 「モーテルや避妊薬業界などでは既に“特需”への期待が膨らんでいる。登山用品、マッコリ(韓国濁酒)、旅行商品などを扱う業者も内心、 売り上げ増を期待している」

 風俗業が活気づくのはもとより、不倫現場に関連するあらゆるモノの需要が増えることが予想されるという。韓国では、配偶者の目を避け、男女が密会する場として山登りなどが利用されているといわれる。

 また同紙は、興信所や離婚問題専門弁護士への依頼も増えると予想する。配偶者に不倫された場合、姦通を刑事処罰できなくなったことで、捜査 当局の代わりに利用するのが興信所。そこで動かぬ証拠が得られれば、配偶者に対する報復措置として離婚訴訟に踏み切る人が増えるという構図 だ。

 姦通罪廃止のニュースは、戦後すぐの1947年に廃止した日本などでは「まだそのような法律があったのか」という一種の驚きをもって受け止められた。ちなみに現在も廃止されていないのは台湾とイスラム教圏の一部国家のみで、イスラム法の場合、姦淫は重罪とされ、死刑になる場合もある。