韓国、日中首脳会談に「衝撃」
会談は「3カ国」、「歴史」譲歩せず
電撃的とも言える日中首脳会談に刺激されるように、韓国の朴槿恵大統領が日本との首脳会談開催に柔軟な姿勢を見せ始めた。ただ、今回の対日柔軟姿勢は依然として第三国を交えた3カ国の枠組みにとどまっており、歴史問題で厳しい態度を変えていないなど胸襟を開いたものとは言い難く、日韓関係の改善にどこまでつながるか予断を許さない。(ソウル・上田勇実)
来年の国交50年にも配慮か
朴大統領はこのほど、ミャンマーで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)首脳会議で、日中韓3カ国の外相会談と首脳会談について「遠からず開かれる韓中日外相会談を土台に、3カ国首脳会談も開催されることを希望する」と述べた。
青瓦台(韓国大統領府)の説明によれば、3カ国外相会談は年内に開かれる公算が大きく、日中・日韓間の突発事態がなければ来年初めにも3カ国による首脳会談が実現する見通しとなった。安倍晋三首相自身は、韓国に対し「常に対話の扉は開かれている」と呼び掛けてきたが、朴大統領との会談が実現すれば、今年3月にオランダ・ハーグで開かれた日米韓首脳会談以来ようやく2回目となる。
朴大統領が安倍首相との首脳会談に前向きな姿勢に転じたのは、先に北京で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場を利用し、電撃的に行われた日中首脳会談に刺激されたためだ。韓国政府は対日強硬外交で共闘してきた中国がまさか日本との首脳会談に応じるとは思っていなかった節があり、外交的な疎外感、孤立感を感じたのは想像に難くない。
韓国はこの“事態”を受け、浮足立った。メディアは一斉に韓国政府に対日外交の見直しを迫り始めた。主要紙の社説は「韓日関係改善において日本の内閣の歴史修正主義が最大の問題ではあるが、朴大統領はより積極的で柔軟になる必要がある」(中央日報)、「南北対話が途絶えている中、韓日のぎくしゃくした関係まで今後も続くなら、韓半島の平和と繁栄を目指す朴大統領の外交も色あせるしかない」(東亜日報)などと、朴大統領の対日強硬姿勢を問題視した。
重い腰を上げ、対日柔軟姿勢に転じたかに見える朴大統領だが、今年3月の日米韓首脳会談と同様に中国という第三国を交えた3カ国の枠組みでの首脳会談という形にとどまった。安倍首相との「差しの会談」こそ双方の本音をぶつけ合い、見解の違いはあっても距離を縮め、そこから新しいものが生まれる可能性があるはずだが、特に歴史認識をめぐり「譲歩が見込めない」安倍首相との単独会談にはまだ相当抵抗があるようだ。
日韓問題に詳しい陳昌洙・世宗研究所日本研究センター長は、韓国メディアの取材に対し「韓日関係が悪くても、こうした多国間関係で首脳たちが会って話をするのは、韓国の道徳的優位(につながり)、韓国の立場が良くなる」と述べている。日韓関係悪化の非はどこまでも日本にあるが、議長国でもある韓国には会談に応じる寛大さがあることをアピールできるということだろうか。
また韓国政府は「過去史をめぐる日本の真摯な措置が必要だという原則に変化はない」(YTNテレビ)ため、日中韓首脳会談が実現したとしても「歴史問題で譲歩なし」の姿勢は不変とみられる。特に朴政権が当初から強調してきたいわゆる従軍慰安婦問題で、「韓国が納得する」措置を日本が取るよう最後まで要求してくるものとみられる。
来年は朴大統領自身が言及したように日韓国交正常化50年という節目の年であることも、朴大統領の対日柔軟姿勢の背景に挙げられる。民間レベルを中心に日韓間の経済協力や文化・人的交流は密であり、今後も発展させなければならないという認識で両国は一致している。昔ながらの反日感情に加え、近年の嫌韓感情の広まりに歯止めを掛けるには、またとないチャンスだ。
今回、朴大統領は日中首脳会談に背中を押される格好で日中韓首脳会談を提案してきた。日本側は韓国との協力の必要性を語る時、必ずと言っていいほど「自由民主主義と市場経済という共通の価値観を有する両国」である点を強調するが、朴政権の中国傾斜路線で最近はかすんで見える。
日中韓3カ国は北東アジアで最も影響力のある国。日本としては共産党一党独裁体制の中国とは一線を画し、「共通の価値観を有する」韓国との2国間首脳会談を開いて中国を牽制(けんせい)したいところだが、韓国がそれに応じず、海洋覇権主義など中国の横暴を助長している側面もある。