北朝鮮批判ビラに韓国で賛否再燃
平壌まで飛来、主催者続行か
韓国の脱北者団体が北朝鮮の独裁体制や人権蹂躙(じゅうりん)を批判する大量のビラをくくり付けた大型風船を北朝鮮に向け飛ばしたことに北朝鮮が反発し、韓国側を銃撃した問題で、韓国ではビラ散布をめぐり賛否が分かれている。久々の南北対話に期待を掛けたい政府は自制を呼び掛けているが、団体側は続行の構えだ。(ソウル・上田勇実、写真も)
「刺激するな」「真実知らせろ」
ビラをくくり付けた風船を飛ばしたのは「対北風船団」と「自由北韓運動連合」の脱北者団体。先週、南北軍事境界線に近い京畿道北部で別々に計数百万枚とみられるビラを飛ばしたが、北朝鮮が高射銃でこれを狙い撃ちするかのように銃撃を加え、一部が韓国側の軍部隊や役場に着弾した。韓国軍もこれに対応射撃を加えるなど、一時、南北が軍事境界線を挟んでにらみ合う格好となり、地域住民が避難する事態に発展した。
対北ビラ散布はもともと韓国政府が心理戦として実施、対北融和政策が敷かれた盧武鉉政権下の2004年に中断され、代わりに脱北者団体が主導的な役割を果たすようになった。これまで何度も北朝鮮から中止を求める脅迫まがいの要求を受けてきたが、今回のように実弾が飛んできたのは初めてだ。
このためビラ散布の中止を求める声が保守陣営にも広がった。特に地域住民に被害が出る恐れを念頭に「北朝鮮を刺激するのはできるだけやらない方がいい」(与党セヌリ党の金武星代表)といった声が上がっている。
また当初から反対の立場だった野党陣営では、南北対話の障害になるという「大義」を盾に「政府が民間団体のすることだからといって強制的に中止させられないというのは責任回避であり職務遺棄」(新政治民主連合の文在寅議員)と、政府にも矛先を向けている。
政府は干渉できないというのが基本的立場だが、先の北朝鮮最高幹部3人らによる電撃訪韓を契機にようやく巡ってきた南北対話ムードを壊したくないというのが本音ではないだろうか。
一方、ビラ散布を支持する声も根強い。大手紙・朝鮮日報は社説で「真実を知らせる努力そのものを諦めることはできない」と主張し、ビラの“威力”に一目置いている。金日成・金正日・金正恩の世襲3代による圧政や自由民主主義を謳歌(おうか)する韓国の発展ぶりなど、外部と遮断された「情報鎖国」の一般住民にとって、ビラはある意味で“福音”だ。
自由北韓運動連合の朴学相代表は「近年、風船が平壌まで飛来し、これを取り締まる国家安全保衛部がアパートの窓を閉めるよう住民に命じたことが脱北者の証言で明らかになった」と述べた。
ビラ散布問題が起こるたびに韓国では賛否が分かれ、いわゆる“南南葛藤”の状態になるが、そうなれば北朝鮮の思うつぼなので、いたずらに北朝鮮を刺激しないようビラ散布は非公開で行うべきだとの主張もみられる。
ただ、朴代表は「後援者を募るため予告して飛ばすこともあるが、公開したのは10回に1回程度」としており、今後も方針を変えない公算が大きい。