北朝鮮、「認定12人」非公開方針か 日本人拉致問題

軍偵察総局、未確認訪朝者らの「新事実」公表立案

【ソウル上田勇実】日本人拉致問題をめぐる日朝交渉をめぐり、北朝鮮が横田めぐみさん=失踪当時(13)=をはじめ日本政府が拉致被害者として認定している12人に関する情報を日本側に公開せず、代わりに自ら北朝鮮に渡って在住している未確認訪朝者らの「新事実」を公表することを工作機関である軍偵察総局が立案し、最高指導者・金正恩第1書記に報告していたことが分かった。北朝鮮による1回目の報告が、当初予告していた「夏の終わりから秋の初め」より遅れている背景に、こうした北朝鮮の内部方針が関係している可能性がある。韓国の脱北者団体「NK知識人連帯」が30日、本紙に明らかにした。

 同連帯が消息筋の話として明らかにしたところによると、在日本朝鮮人総連合会と北朝鮮の労働党国際部、外務省の担当者らは今年6月、拉致問題をめぐる日朝交渉に関する報告書「日本人工作員(日本人拉致被害者に対する北朝鮮での呼び方)の情報公開を求める日本政府の立場と日本社会の情緒を報告致します」の中で、日本政府が北朝鮮に「日本の国民感情にある程度応える水準の漸進的な結果」を要求していることに着目すべきだとし、その「水準」を「日本の政治家がメンツを保てる」と判断したという。

 これに基づき軍偵察総局が具体策を立案。「認定12人」について北朝鮮は「死亡」や「入国事実なし」の立場を既に表明済みである上、事実上の最高権力機関である党組織指導部と秘密警察の国家安全保衛部が「認定12人」の情報公開には応じられない立場であることを前提に、その代案として今回設置された特別委員会が調査した結果、何らかの理由で自ら進んで北朝鮮に渡り、その後、北朝鮮に帰化して現地に在住している未確認者や日本人遺骨の情報などを示し、これを特別委の報告内容に盛り込むよう提案したという。

 これが事実とすれば、日本政府は当初から「認定12人の生死確認と生存者帰還を最大目標にしている」(政府関係者)とされ、こうした北朝鮮の方針を受け入れる可能性は低い。

 ただ、偵察総局は認定12人に関する情報が非公開に終わったとしても「未確認者らの情報に気を奪われ、やがて世論の反発も収まる」との見通しを金第1書記に伝え、金第1書記も「日本の世論と政府の要求を区別し、日本ペースに巻き込まれないよう我々の誠意を日本が受け入れるよう該当部署に指示した」(党関係者)という。

 一方、党組織指導部は9月初め、日本人拉致被害者とその子供らに対する監視態勢をさらに厳重にする方針を金第1書記宛ての緊急提議書に記したことが分かった。これは9月5日ごろ、平壌市在住の北朝鮮住民が、平壌の人民経済大学に通う拉致被害女性の息子にDNA(遺伝子)情報の特定に向け本人と母親の髪の毛や唾液の提供を求め、その見返りに3000ドルを供与しようとして摘発された事件がきっかけ。

 現在、平壌では拉致被害者とその家族の情報提供者には謝礼を与えるという趣旨の噂(うわさ)が出回り、保衛部などが取り締まりに躍起だという。監視態勢強化で被害者と家族は極度のストレスに悩まされている恐れがある。