韓国教師の北朝鮮称賛、教育界の深刻な左翼偏向

生徒の通報で社会問題化

 日本では学校や教師を悩ます「モンスターペアレント」がいるが、韓国にも同じような「モンペ」は存在する。苛烈な大学進学競争があるため、教育への注目度が高く、勢い要求も強くなるからだ。

 だが、進学や学校生活とは別の生徒と教師の緊張関係が韓国には存在する。それは「申告」である。教師の「思想的偏向や扇動」を生徒が通報するのだ。「扇動・偏向申告センター」がそれを受け付ける。

 韓国では、学校で北朝鮮体制を称賛する一方で、政府や政策を批判する教師が少なくない。彼らは学生時代、左派学生運動に加わったか、その影響を強く受けており、思想的中核には「主体思想派」という北朝鮮のコントロール下にある学生や北で現地訓練された工作員までがいた。

 彼らとその周辺のシンパ層を「運動圏」と呼び、卒業後、教育界だけでなく、労働界、司法界、そして政界にまで社会各層に深く浸透していった。昨年9月に「内乱陰謀罪」で逮捕された統合進歩党の国会議員・李石基(イソツキ)はその顕著な例である。

 現在、教育界の中堅メンバーとなっているのが彼ら「運動圏」出身の左傾化した教師たちで、月刊朝鮮は2011年12月号で「左偏向教師告発その後」を、13年4月号で「教師たちの度を越えた政治偏向発言」を載せたほど、社会問題化しているのが実情だ。

 同誌は9月号でも、「北朝鮮称賛教師は実際に存在するか」の記事を掲載した。これは実際に生徒から申告されたケースを取り上げ、「深刻な内容の情報提供が多い」実態を伝えている。

 具体例を紹介する前に、なぜ教育庁(教育委員会に相当)に「申告」が行かず、民間団体である「センター」が受け付けるのかを見てみる。センターのクォン・ユミ代表は「教育庁に通報すると、身上が露出し、むしろ通報した生徒に不利益がいく場合が少なくないため、多くの生徒と保護者がセンターを利用する」ということだ。

 そもそも教師がなぜ北朝鮮を称賛してはならないかの根拠は「国家保安法」である。だから左派は一貫して同法の廃止を訴えてきた。しかし、常に緊張関係にあり、武力挑発も持さない北と対峙(たいじ)している韓国政府としては、国家保安法を維持せざるを得ないのが現状だ。

 さて、教師たちは現場で何を生徒に教えているのだろうか。同誌によると、「北朝鮮は韓国より貧富の差がない。競争がなく公平な社会」(仁川A高校国語教師)、「金正日(キムジョンイル)は悪い人ではない。高麗連邦制を知っているか」(京畿道議政府B高校社会科教師)、「北のほうがはるかに暮らしやすい。韓国は北の民主主義を学ぶべきだ」(水原C高校倫理教師)、「延坪島砲撃は政治的に操作されたもので、韓国に米国の植民地・属国の役割をさせている」(江原道F高校教師)、「国家保安法は間違っている。廃止しなければならない」(大邱G高校歴史教師)などだという。

 ところが、同誌がこれらの教師に発言の有無を問うと、一様に「事実無根」と否定した。中には「録音があるのか」と居直り、通報した生徒の名前を知りたがり、「謀略」を訴える者までいた。

 不思議なことである。同誌は「被害者はいるのに、加害者がいない」と首をひねる。結局、「決定的証拠など出てこない」と教師たちが高をくくっているのか、教師を陥れようとした生徒の“遊び”だったのか、真実は不明だと同誌は分析する。

 だが、問題はそれでも通報は増えていることであり、これに対して教育庁が何もしていないということだ。

 国会で与党セヌリ党議員が「全国17市道教育庁から提出させた嘆願提起事項と処理結果」資料によれば、「2008~13年に受理された嘆願105件の29・5%に該当する31件が『政治偏向授業』に対する不満だったが、それでも、処罰を受けた教師は殆どいなかった」という。

 政治的偏向も問題だが、生徒が教師を通報する社会も、それはそれで病んでいる。北と対峙する韓国の現状でもあるわけだ。

 編集委員 岩崎 哲