保守層も朴大統領批判、組織崩壊直前の韓国政権

国益損ねても人気に執着

 韓国では朴槿恵(パククネ)大統領が推した国務総理候補者が、国会の人事聴聞会にかけられることもなく、相次いで「落馬」し、結局、辞意を表明していた現総理がそのまま席に留まるという異例の事態となり、大統領の政権運営能力が厳しく問われている。

 特に、中央日報主筆を務めた文昌克(ムンチャングク)氏が、メディアの歪曲(わいきょく)報道とそれに扇動された世論の攻撃で候補を降りたときには、朴大統領の旧来の支持層が大きく「失望」した。

 後になってみれば、攻撃された文氏の発言にはなんら問題はなく、むしろ適材をむざむざと総理に据える前に潰してしまったことは「国家的損失」とまで言われ、文氏をメディアの餌食として差し出した朴大統領への批判が膨らんだ。

 「月刊朝鮮」(8月号)に元同誌編集長の趙甲済(チョカプチェ)氏が、「大韓民国の崩壊」の原稿を寄せている。ネットメディア「趙甲済ドットコム」の代表を務め、韓国保守言論界の重鎮として健筆を振るっている趙氏は、ネットに現れた保守層の朴大統領批判の内容に、事態の深刻さを感じ取っているようだ。

 ネットには旧来の支持層が朴大統領を「直接に批判する書き込みで溢れていた」という。趙氏は「左派がする批判とは次元が違う」「彼ら(支持層)が反対に回れば、政権が不安になる」と危機意識を示すほどだ。

 趙氏は、「韓国保守層の政治的判断基準は憲法、事実、国益だ。彼らの目には朴大統領が扇動勢力から国家的真実を守護できず、その一方で、自身の人気に執着する人物に映り始めた」と指摘し、「こうした本質的批判を受けるということは“組織崩壊”の前段階ではないのか、注意が必要だ」と警告している。

 そして、こうした内政での朴大統領の態度は「外交と安保にも悪い影響を及ぼす」として、7月初めの習近平中国国家主席の韓国訪問で、朴大統領が犯したいくつかの大きなミスを取り上げた。

 最大のミスは共同声明で「韓半島の非核化」に合意したことだ。中国は「北核」といわず、韓国も含めた半島全体の非核化を求め、韓国はそれに同意してしまった。これは、北朝鮮では核ミサイルの「実戦配備が迫っている」にもかかわらず、「もっとも有効な対抗策である自衛的核開発放棄を宣言した」ということを意味し、「国家生存権の放棄だ」と厳しく批判する。

 日本の集団的自衛権行使について、韓国は政府次元では一度も反対していなかった。だが、中韓首脳会談で「(行使容認には)様々な国が憂慮しており、平和憲法に応じる方向で防衛安保政策を推進すべきだ」と、「韓国大統領が中国主席とともに集団的自衛権を批判した」格好になった。

 趙氏は、「日本が米軍を助けようとするなら(すなわち韓国を助けようとするなら)集団的自衛権行使は必要」であり、それを批判するのは「敵(北)の後見勢力である中国側に立って、同盟国米国を間接批判したも同然」と断じ、「これでは中国の忠実な使い走りに映る」と憂慮した。

 こうした「中韓の接近」と「中韓による日本批判」に危機感を持つ韓国知識人の声が、韓国社会にどの程度、聞こえて行っているのかを知りたいところだ。

 また最近の日朝交渉を朴大統領が批判したことについて、趙氏は「むしろ韓日関係が良好ならば、日本の一方的な対北朝鮮接近は韓国の了解なしでは不可能だっただろう」と述べ、いたずらな反日外交への省察を求めているが正論だろう。

 記事の中で、韓国での戦争英雄のとらえ方を述べている個所が興味深い。「米国の戦争文学は英雄を設定して、その活躍と教訓を伝える。だが、韓国は戦争で主人公がどれくらい苦労し、苦痛を受け、みじめだったかを羅列する」という。

 壬辰倭乱(文禄の役、1597年)で活躍した水軍司令官・李舜臣(イスンシン)を描いた映画「鳴梁(ミョンニャン)」が大ヒットしているというが、李舜臣も朝廷や官僚の妨害でまともに戦えなかった。映画の人気は「無能政府への失望の裏返し」なのだろう。

 編集委員 岩崎 哲