北朝鮮消滅期待発言、相手無視した朴政権の統一論
長時間の積み重ねが現実的
韓国国防部の金珉奭(キムミンソク)報道官が、北朝鮮について「ウソをよくつく国だ。国家といえるのか。早くなくなるべきだ」と非難したと報じられた。韓国政府の公式見解ではないだろうが、北朝鮮がこの地上から消滅してほしいというのは極端な発言であり、相手をまったく無視し愚弄した話である。
朴槿恵(パククネ)大統領は1月の記者会見で「統一大当たり」論に言及し、2月の就任1周年に「統一準備委員会」立ち上げを明らかにし、3月には旧東独のドレスデンで「韓半島平和統一のための構想」を打ち上げた。
南北統一が俄(にわか)に議論となったのだが、いずれも、具体的な構想や動きに繋(つな)がっていない。「大当たり」は希望的観測が過ぎ、統一準備委員会は提案から3カ月たつが、一向にスタートする気配もなく、ドレスデン宣言に北朝鮮は500発の砲弾で答えた。
いつになく統一論議が持ち出されているわりに、何も具体化していないのは、これらの構想自体に問題があるからだという指摘が出てきている。
「月刊朝鮮」(5月号)に掲載されている国民大学校の朴輝洛教授による「真に統一を望むのなら、統一議論をしばらく伏せよう」の原稿に注目してみる。
朴教授は統一の準備をしたり、青写真を描くだけでは統一は実現せず、それよりも、具体的な統一へのロードマップを示せと政府に迫る。「美辞麗句よりは統一達成に政権の勝敗をかけるという覚悟を聞きたい」というのだ。
これには、根拠の乏しい「大当たり」論や、ともすれば独りよがりの「統一準備委員会」構成などへの批判が込められていよう。金報道官のような発言が出てくる背景には、こうした相手無視の考え方が敷かれている。
朴教授の主張で注目されるのは、「国民の大多数が期待しているだろうが、統一は北朝鮮の急変事態や崩壊からは連結しない」という警告だ。「金日成、金正日が突然に死亡しても、北朝鮮は全く動揺しなかった」といい、「無政府状態になったとしても、どんな方法ででも自体安定を探るだろう」と述べる。熟柿(じゅくし)が落ちるのを待っているような受け身では統一は実現しないとの戒めである。
さらに、「自由民主主義統一を指向するなら、『統一しよう』とは、すなわち北朝鮮にとり『共産主義を放棄せよ』ということだ」と述べ、一方的な相手側の体制否定は統一論議に結びつかないとも指摘する。
さらにもう一点、「現在、韓半島で軍事的優位を占めているのは北朝鮮であって、韓国ではない。歴史的に軍事的に劣勢な国家が優勢な国家を統一した例はない」として、南北の軍事バランスの現実を受け入れるように勧めている。
朴教授の統一論は結論から言って「平和共存から始めよう」ということだ。相互交流、軍事的緊張緩和、相互信頼の積み重ね、そして条件が整って行けば統一を視野に入れていく、というものである。
「平和共存の名分こそ、北朝鮮の核廃棄を主題にした南北の交渉が可能になる」のであり、「平和共存であれば、周辺国家も支持する」との見通しを示す。
北朝鮮は崩壊せず、共産主義放棄も訴えてはならず、南側だけの統一準備や青写真を描くのも控えろ、という主張は、ずいぶん北朝鮮に配慮したり、譲歩しているような主張に見えるが、朴教授は「統一を議論しながらも、北への警戒感を捨ててはならない」とし、「北朝鮮に約束を守らせるには国防力の裏付けが必要だ」と釘を刺すことも忘れていない。
「統一は盗人のごとくやって来る」という言葉は統一への備えを怠ってはならないという警句であって、ある日突然統一が来るわけではない。朴教授の「平和共存の土台の上で統一に向かった努力を着実に積み重ねる時、長時間かけて統一は達成されるだろう」という見通しの方がはるかに現実的である。
編集委員 岩崎 哲