韓国、客船沈没事故で総懺悔?

 先月、韓国南西部の珍島沖で発生した客船「セウォル号」の沈没事故。韓国では安全軽視や責任意識の欠如などがもたらした事実上の人災だったとする認識が広がり、韓国人全体に根付く間違った精神文化を正そうという機運も生まれている。
(ソウル・上田勇実、写真も)

「社会の投影」「全ての共業」

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旧ソウル市庁舎(現ソウル図書館)前に設置された合同焼香所。旧市庁舎には「ミアナムニダ(ごめんなさい)」と記された横断幕が掲げられている(7日撮影)

 ソウル市庁前広場。事故で設けられた合同焼香所には今なお焼香客が後を絶たない。その横にある犠牲者を弔うメッセージボードにはハングルで記されたこんな文字があった。

 「日本はない、朝鮮もない、大人たちもいない」

 「日本はない」は、「韓国が見習うべき日本はない」などと主張して日本批判を展開した90年代の韓国ベストセラー本のタイトル(邦題は「悲しい日本人」)。これに引っ掛けて反日感情をも上回る国と大人たちへの怒り、不満をぶちまけているようにも見える。

 別のボードにはこんな言葉もあった。

 「欲張りで無能な大人たちのせいで君たちが犠牲になったかのようで、本当に済まない」

 乗客を見捨てて真っ先に逃げだした船長や金もうけのため安全無視で荷物を積み過ぎた船会社、人命第一のはずなのに迅速に救助活動ができなかった政府や警察など、全ては「韓国社会の日常の投影」であり、結局は「自分自身の問題」なのだと多くの韓国人が感じているようだ。

 一時帰国し、焼香所を訪れたという在米韓国人男性の河源白さん(65)はこう言う。

 「韓国は安全や責任などに対する考え方で、まだまだ米国や日本より遅れているということを国民は感じ取ってほしい。民主主義と言ってもお互いが人情や馴(な)れ合いでつながり過ぎている社会だ」

 韓国では、各宗派の代表らが国難のたびに精神的支柱の役割をしてきたが、「IMF危機(1997年の通貨危機)より深刻」(金ハンギル新政治民主連合共同代表)だとの指摘も上がる今回の事故には厳しい“お叱り”があった。

 陰暦で「御釈迦様の日」に当たる6日、韓国最大仏教宗派・曹渓宗の本山、曹渓寺では「事故は子供たちを守れなかった大人たちの責任で、常識を守らないわれわれ全ての共業。骨身に染みる洞察と懺悔が必要だ」という法話があった。

 人口約5000万人が総懺悔するかのような雰囲気の中、朴槿恵大統領の口からは「国家改造論」が飛び出している。朴大統領は事故後の国務会議(閣議)で「大韓民国の枠組みを再び正して国民の信頼を取り戻し、安心して住める国を造る道に進んでいく。(中略)国家改造をするという姿勢で徹底して臨まなければならない」と述べ、不退転の決意を表明した。

 だが、「改造」は人事や土木工事、システムの導入など外面的なものではできない。内面的、精神的な文化が変わらなければならない。父、朴正熙元大統領がブルドーザーのように推し進めた「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長よりも、はるかに難しいかもしれないのだ。

 事故後も、地下鉄の駅では依然として下車する人を待たずに乗車しようとする人が絶えない。バスは車体のデカさに物を言わせるように平気で割り込み運転をする。

 今回の事故では全国的に消費心理が萎縮したり、各種の行事やお祝い事も中止されている。ソウルで宅配業に携わる朴鍾吉さん(49)は「この時期はカーネーションの大量注文があるが、今年は注文がパッタリ途絶えてしまった。マスコミも事故をほどほどに扱ってほしい」と語る。事故の教訓うんぬんよりも生活で頭がいっぱいというのが本音の人もいる。