「わが国は三流国家」 韓国客船事故で各紙自己批判
韓国南西部沖で起きた旅客船「セウォル号」の沈没事故。修学旅行の高校生たちが多く犠牲になり、今なお安否不明者の捜索活動が続いているが、乗客の安全をそっちのけで真っ先に逃げ出した船長の態度には「殺人行為に等しい」(朴槿恵大統領)などと非難が集中し、各紙からは韓国社会に根付く“後進性”を嘆く自己批判が相次いでいる。(ソウル・上田勇実)
人命よりカネ、配慮を軽視
韓国では、今回の事故について、船長をはじめとする当事者の人間性の欠如、安全不感症が最も大きな原因であり、問題はセウォル号船長だけに終わらず、社会全般にこうした風潮がはびこっている点にあるという指摘が目立つ。
朝鮮日報は主筆コラムで、「セウォル号船長は16世紀南米で原住民の命を無視したまま銀採掘で大儲(もう)けしたスペインのような人命観の持ち主」だとし、無事救出された船長が、所持していた海水に濡れた5万ウォンと1万ウォンの紙幣を乾かす光景を「乗客を5万ウォン紙幣にも劣る荷物程度にしか考えなければ到底できないこと」と痛烈に批判した。
また同紙元東京特派員による看板コラムは、車線変更も加速もせず、急ブレーキもかけないニューヨークと東京のバスが「常に最悪の事態を念頭に置いている」のに対し、セウォル号の船長は「最悪を念頭に置かず、最初は楽観したため悲劇を招いたと海外専門家はみている」と指摘。船長は約20年前(金泳三政権時)崩落した「聖水大橋の管理者や三豊デパートの経営者たちとは人が代わっただけで、その人たちと同然」であり、「韓国社会の公衆安全に責任を持つ随所に今なお『セウォル号船長』が居座っている」と嘆いた。
安全無視という面では、セウォル号の船尾客室部分が増築された形跡があり、重心が高くなって傾きからの復元力が低下したのではないかという見方もある。「ケンチャナヨ(大丈夫)精神」などともてはやされた韓国人の大胆さが、取り返しのつかない大惨事を招いた可能性が出ている。
一方、船内に閉じ込められたままとみられる安否不明者の救助活動でも醜態が続いた。海洋警察庁や海軍が救助装備を運び込む際に互いに費用負担を懸念したこと、救助者や不明者の統計数値が二転三転したこと、票を意識するかのように国会議員たちが現場に顔を見せてはすぐ引き返して行ったこと、陣頭指揮を執るはずの政府関係者が現場で記念写真を撮り不明者家族から叱責されたこと…。
中央日報は社説で「私たちは『安全(に責任を持つ)政府』に対する期待と希望さえ沈没してしまったという、また一つの悲しい現実に直面している。世界7位の輸出強国、世界13位の経済大国という修飾語など、ただ恥ずかしく、みすぼらしいだけ」とし、「わが国の水準は三流国家」と断じている。
韓国は近年、「先進国入り」を盛んに叫んできた。特に1人当たりの国内総生産(GDP)が名目・実質とも2万㌦を超えた李明博前政権では、大統領自らが事あるごとに“広報”して回った。だが、肝心の人間性がまだ追い付いていなかったのだろうか。今回の事故はそんな疑問を投げ掛けている。
「われわれ社会構成員全てが、複雑に絡み合った不条理と怠惰と無謀さと無責任を告白すべきだ。(中略)自分より他人を配慮することに大韓民国がいかにケチで乏しいか、海中の子供たちが教えてくれている」(ソウル新聞社説)