止められない北朝鮮の「暴挙」、IAEA査察官追放から5年

 国際原子力機関(IAEA)の査察官が北朝鮮の寧辺核関連施設から国外追放されて16日で5年目を迎える。IAEAは北の核問題検証で5年間の“空白”を強いられている一方、北朝鮮はその核能力を強化してきた。(ウィーン・小川 敏)

査察官不在中に核実験

ウラン濃縮活動も活発化

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2013年9月16日、ウィーンの国際原子力機関(IAEA)総会で演説する天野之弥事務局長(EPA=時事)

 IAEAの天野之弥事務局長は定期理事会の冒頭声明で、北朝鮮の核問題について「まったく情報がない」と言い続けてきた。

 天野事務局長は3月定例理事会で、「北朝鮮の核問題は引き続き深刻な懸念だ。北朝鮮当局はIAEAとの間のセーフガード協定の順守を明記した国連安保理決議の義務を速やかに履行すべきだ」と要求したばかりだ。同事務局長のこの発言内容は昨年11月理事会とほぼ同じだが、仕方がない。新しい情報がないのだ。

 一方、IAEAの5年間の空白期間、北朝鮮側はさまざまな核関連活動を実施してきた。北朝鮮は過去、3回核実験を実施した。最初は2006年10月9日、そして2回目は09年5月25日、そして13年2月12日の計3回だ。そのうち、2回はIAEAの空白の5年間の期間だ。

 北朝鮮は昨年、寧辺の5㌔㍗黒鉛減速炉を再稼働したと表明している。実際、同施設周辺の上空から放射性希ガスが検出されている。北朝鮮はIAEA査察官の不在をいいことにウラン濃縮関連活動も本格化している、といった具合だ。

 IAEAと北朝鮮の間で核保障措置協定が締結されたのは1992年1月30日だ。あれから20年以上が過ぎる。IAEAの理事会議題としては最長だ。ちなみに、イランの核問題が理事会の議題となったのは2003年以降だ。

 北朝鮮とIAEA間の主要な出来事は以下の通り。

 ①IAEAが1993年2月、北朝鮮に対し「特別査察」の実施を要求。北朝鮮は拒否し、核拡散防止条約(NPT)から脱会表明。

 ②米朝の核合意(1994年)。

 ③ウラン濃縮開発容疑が浮上。

 ④北朝鮮は2002年12月、IAEA査察官を国外退去させ、翌年、NPTとIAEAから脱退。

 ⑤6カ国協議の共同合意に基づいて、北朝鮮は02年、同国の核施設への「初期段階の措置」を承認し、IAEAは再び北朝鮮の核施設の監視を再開。

 ⑥北朝鮮は09年4月、IAEA査察官を国外追放。それ以降、IAEAは北朝鮮の核関連施設へのアクセスを完全に失う。

 IAEA査察局アジア担当のマルコ・マルゾ部長は「6カ国協議の再開が実現されれば、IAEAの査察問題が議題となる。IAEAとしては北朝鮮問題での政治的環境が改善されるのを待つだけだ」と諦観している。

 オランダ・ハーグで3月25日開催された日米韓首脳会談では核問題を含む北朝鮮への対応が主要議題となったばかりだ。6カ国協議の再開の見通しもあまり明るくない。米国は北朝鮮側に具体的な非核化措置を要求し、北朝鮮が要求している核保有国を認める意向はまったくない。

 なお、北朝鮮のリ・トンイル国連次席大使は4月4日、ニューヨークの国連本部で「新たな形態の核実験を実行する」と警告を発した。米韓両国は北が4回目の核実験の準備をしていると警戒している。