北朝鮮の無人機侵入に揺れる韓国

軍事境界線越え3機墜落

 北朝鮮のものとみられる無人機が、軍事境界線を越えて相次ぎ韓国に侵入し、波紋が広がっている。これまでに確認されたものだけでも3機が墜落し、韓国政府は防空網をくぐり抜けてきたことにショックを隠し切れない様子だ。新たな北の「挑発」にはどのような思惑が隠されているのだろうか。(ソウル・上田勇実)

テスト?偵察?世論分断狙いも

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6日、韓国北東部の山地で発見された無人機(韓国国防省提供)(時事)

 北朝鮮のものとみられる無人機の墜落が最初に明らかになったのは今月1日。黄海の軍事境界線に当たる北方限界線(NLL)に近い白●(=令に羽)島に3月31日墜落したことを軍当局が発表した。その後、先月24日に韓国北西部の京畿道坡州市の山中で似たような無人機が墜落していた事実が明らかにされ、さらに今月6日には北東部の日本海沿いにある江原道三陟市で3機目が発見された。

 軍と情報機関による調査結果など、これまでの情報を総合すると、これらはいずれも北朝鮮軍傘下の対南工作機関・偵察総局が飛ばした偵察用機である可能性が強まっているという。無人機は全長・全幅とも1~2㍍で、機体は青地、白い縞(しま)模様が描かれた迷彩色のものもあった。エンジンや機体などは模型飛行機レベルで、座標を入力した後に自力で飛行し、燃料が切れてそのまま墜落したとの見方もある。キヤノンやニコンなど市販の日本製カメラを装着し、解像度はさほど高くないものの上空から青瓦台(大統領府)などを撮影していた。

 問題はこの種の無人機はレーダーで探知されず、肉眼でも識別が難しいとされ、韓国が事実上の無防備状態に置かれていることだ。自爆型など攻撃用に改造された場合、民間人を巻き込んで大きな被害が出る恐れもある。

 今回、墜落が確認された地点をみると、1、2機目はいずれも軍事境界線付近だったが、3機目は約150㌔も離れていた。攻撃用なら中部の大田市まで射程に置けるという分析もある。金寛鎮国防相は「まだ初歩的段階だが、今後、制御装置などの開発が進めば、すぐに恐ろしいテロの武器に成り得るため、早急な対策が必要」と述べている。

 今回、北朝鮮が無人機を飛ばした狙いについて、幾つかの可能性が指摘されている。第一に性能テスト、第二に偵察用、第三に韓国世論の分断工作だ。

 北朝鮮は1990年代から本格的な無人機開発に取り組み始め、現在、自力で開発したものは数百機に達し、すでに軍事境界線の北側十数㌔に配備されているといわれる。性能を確認しながら韓国の情報を収集し、同時に韓国世論の反応を見ようとしている可能性がある。

 金成浩・元国家情報院長は無人機飛来について「わざと墜落させ、韓国社会に恐怖心を植え付けさせようというもの」との見方を示した。北朝鮮の挑発には断固たる態度を取るべきだという主張と北朝鮮をこれ以上刺激しない方がいいという主張に分かれる、いわゆる“南南葛藤”狙いだ。6月の統一地方選を前に、北朝鮮に融和的な野党候補に有利な環境をつくろうという 韓国世論分断工作である。

 韓国メディアは、北朝鮮国営テレビが昨年6月放映の記録映画で、最高指導者・金正恩第1書記が模型飛行機の操縦試験を参観する場面を紹介したとしながら「金第1書記は無人機の技術に関心を寄せている」と警鐘を鳴らしている。