元大使が語る「結び目を作った側が先に動け」

「韓日関係の出口」 新政権誕生に備え知恵を絞る必要

 韓国では悪化した日韓関係を修復しなければならない、という議論がメディアに登場するようになってきている。誰が見ても、今のような首脳同士の疎通すらもできない関係が長続きしていいわけがない。

 今日の関係悪化の原因は「慰安婦」と「徴用工」に象徴される日韓併合解消時の清算問題が蒸し返されたことによる。これ自体は、1965年の日韓基本条約および請求権協定で解決済み、というのが国家と国家の間で取り交わされた約束である。

 これを韓国が「当時の政権が“国民の同意なしに”結んだ不十分な協定であり、だから遡(さかのば)ってやり直せ」と要求してきたことが発端だ。植民地支配に対する謝罪(いわゆる「村山談話」)や、慰安婦問題への対応(アジア女性基金)など、韓国側から問題が持ち出されるたびに日本政府は対応してきた。政権が代わるごとに謝罪や補償要求が繰り返されることで、日本は次第に韓国への信頼を失っている。

 2015年の慰安婦合意はこれに終止符を打つ「最終的な」合意だった、はずだ。しかし、その後に登場した文在寅(ムンジェイン)左派政権によって、事実上反故(ほご)にされたことで、日本は韓国を「共通の価値を有する国」から外した。さらに、韓国の大法院(最高裁)で「徴用工判決」が出されたことで、戦後の日韓関係を規定してきた請求権協定体制をも壊されてしまい、完全に信頼が失われたと判断した。これが現在の状況である。

 韓国側ではこの事態をどう見ており、どう解決しようとしているのか。月刊中央(9月号)は「代表的な日本通」である韓国外交協会会長の李俊揆(イジュンギュ)元駐日大使に「韓日関係の出口」を聞いた。

 李大使の在任期間は2016年7月から翌年10月までのわずかな間だったが、朴槿恵(パククネ)政権で東京に赴任して、弾劾事態で黄教案(ファンギョアン)権限代行になり、そして文在寅政権が成立して「3人の国家元首に仕えた」という珍しい経歴を持つ。この間、出先機関の代表としては日韓の間に挟まって、ずいぶん苦労したはずだ。

 李氏は今日の関係悪化の原因について、「根本的な(反目の)原因は文在寅政権が反日情緒を持っていて、日本政府はこれに疑いの目で眺めているというところにある」と述べている。これが韓国の外交界から眺めた常識的な見解である。

 慰安婦合意が形骸化されたことに「日本政府は衝撃を受けた」し、徴用工判決で「韓国政府が第三者的態度」を取るのを見て、日本政府は「ほとんど絶望したと考える」と述べており、このように判断できる専門家が韓国にいることに若干の安堵(あんど)感を覚える。

 ただ、日本側の責任として、「終戦直後、日本がまともに過去整理をしたとすれば、両国関係の発展ははるかに順調だった」としているのには疑義がある。その時、日本にその権限はなかったし、日本が主権回復したのは1951年のサンフランシスコ講和条約によってで、その日本に過去整理をせよとは無理な注文だ。

 最近の関係悪化の一因に「日本の輸出制限措置」を挙げているが、これもお門違いではないだろうか。経済産業省の国内企業に対する輸出管理の見直しであって、「韓国への経済制裁」ではない。問われているのは日本の企業で、韓国の過剰反応は被害妄想に近い。

 ただ、李氏は「今になって誰の善しあしかを問い詰めるのは意味がない」と流しつつ、「結び目を作った側が先に動くほかない」としている。これは日本を指しているのか、文政権のことを言っているのか、文脈からははっきりしない。

 このどちらとも取れるような言い回しこそ、むしろ韓国特有のレトリックで、一方を批判するようでいて、その実、他方をたしなめるところに本当の狙いがある。最近は少しでも日本の肩を持てば「土着倭寇」の誹(そし)りを受けるから、発言がより慎重になっているのだろう。

 当面、両国とも選挙の季節を迎える。「韓日両国が新しい政権になって、それから早急に関係復元を進める根拠でも用意しておくことができるならば、最善ではないかと思う」と李氏は言う。動かず、しかし知恵は絞れとは、日韓ともに必要なことだ。

 編集委員 岩崎 哲