文在寅政権の「岩盤支持層」にひび?
陳重権シンドローム 左派陣営の論客が公然と反旗
新型コロナウイルスの災禍が世界中に広がっている。早期にその戦いの渦中に引きずり込まれた韓国でもいまだ収まる気配がない。にもかかわらず、文在寅政権は新型コロナ対策で「世界は韓国を模範とするだろう」と自画自賛だ。
国民は呆(あき)れている。むしろこの無能な政府を弾劾せよと追及する。しかし、事態がこれほどなのに、文政権は一見したところビクともしていない。「岩盤支持層」があるからだ。何があっても文在寅を支持する思想的核心層がいるのだ。
それは38世代と呼ばれる、1980年代の大学界で共産主義の洗礼を浴び、北朝鮮の主体思想に傾倒した「主体思想派」を核とした層のことだ。日本の全共闘世代にも似た反体制、反権力の空気をまとった世代が「従北派」や「親北派」としてその周りを取り囲んでいる。
彼らは当時、民主化を進める理論的後ろ盾を共産主義や主体思想に求めた。時の「軍事独裁権力」に抵抗し、その過程で苛烈(かれつ)な扱いも受けた。政権が全体主義的な強権体質を取った理由は、「民主化」の陰に共産主義による韓国革命工作のにおいを嗅ぎ取ったからだ。
そうした時代雰囲気の中で38世代は運動の前面に出る者と、社会に浸透していく者とに分かれた。彼らは今日、政界をはじめ労働、法曹、教育、メディアなど各界各層で主流世代となっている。文政権はその結実といっていい。
ところが“民主化の結晶”であるはずの文在寅政権は、かつてと同じように「全体主義」的性格を露出させた。それが「曺国(チョグク)事態」だ。左派の理論的支柱であった曺国の法務長官就任を押し切ったところ、次々に立場を利用した家族のスキャンダルが明らかになり、政権はそれを力で覆い隠そうとした。追及する検察当局には人事攻勢をかけ「血の粛清」とまで言われたほどだった。
ここでようやく本稿の本題に入る。この事態に同じ左派陣営にいた論客が公然と反旗を翻したのだ。陳重権(チンジュングォン)という。中央日報社が出す総合月刊誌月刊中央(3月号)が「陳重権、進歩の仮面を剥ぐ」を特集している。この馴染(なじ)みのない人物がなぜ今、韓国で注目されるのか。
同誌は特集の冒頭で、「市民が目覚めている。進歩を絶対善だと感じた信頼が幻想であったのを自覚し始めた」とし、それを「陳重権シンドローム」と呼ぶ。
陳はソウル大美術学部で学び、「現場運動家というより理論に明るい戦略家」だった。これまで進歩政党の創立に関わりながら、常に一兵卒でいた。彼を評して、「多様性アウトサイダーと要約できる」としている。「多様性」は韓国が最も苦手とする在り方だ。長く中央集権国家、単一価値、正統性を好んできたこの半島では、多様性を認めにくく、主流派でいたいためにアウトサイダーでいることは居心地が悪い。
ファシズムを極端に嫌う陳は「従北派は進歩でなく、保守のうちでも最も反動的な勢力」だと言って憚(はばか)らない。「個性の強い異端児」と言われる所以(ゆえん)である。陳はインターネット交流サイト(SNS)を言論活動の舞台にしているが、彼の発言は既成メディアの注目の的となる。総選挙を控えて、強敵が政権批判に回ったため、「陳が何を言った」とニュースになるからだ。
ただ、これまで言動を共にしてきた左派ジャーナリストで元国会議員、元福祉相の柳時敏(ユシミン)は、袂(たもと)を分かったかつての同志を「誰も相手にしない。格別な影響もない。一人で言わせて放っておけ」と「平静さを装っている」という。
だが、陳の鋭い舌鋒(ぜっぽう)は左派の脅威となり、保守派を喜ばせている。とはいえ、陳が思想的に左派と決別したわけではなく、彼はファシズムを嫌っているだけなのだが。
そして同誌はもう一人、左派政権内にいて、今、反文在寅、反共に民主党の旗幟(きし)を鮮明にした検事総長の尹錫悦(ユンソンヨル)も取り上げた。●国スキャンダル追及を政権が止めさせようとしたことに抵抗している。かつて司法を壟断(ろうだん)した軍事政権と同じだというわけだ。
この二つのシンドロームにより、岩盤支持層にひびが入るのだろうか、注目だ。
編集委員 岩崎 哲