ゼレンスキー政権本格始動へ、ウクライナ議会選で与党圧勝
ウクライナで7月21日に行われた繰り上げ最高会議(議会)選挙(450議席)は、ゼレンスキー大統領の与党「国民の奉仕者」が過半数を超える253議席を獲得し、圧勝した。ゼレンスキー大統領の政治方針は欧米志向を基本とするが、現段階では不透明な部分も多い。財政難に苦しむ中、秋にも土地売買を解禁する方針に対し、懸念の声も広がっている。
(モスクワ支局)
反露勢力減退に欧米慎重
ゼレンスキー大統領は就任後、ポロシェンコ前大統領派などが支配する最高会議に基盤をつくるため、繰り上げ議会選挙に踏み切った。
紛争が続く東部では、親露独立派が支配する地域が選挙をボイコットしたため、小選挙区は定数の225議席ではなく199議席を争った。比例代表225議席を合わせると、合計で424議席。
政治の変革を求める有権者は、多数の新人候補を擁立した大統領与党「国民の奉仕者」に票を投じた。
「国民の奉仕者」は、過半数を超える253議席を得て圧勝。第2党は親ロシア派の「野党プラットフォーム」で45議席、ティモシェンコ元首相の「祖国」は26議席という結果になった。一方、ポロシェンコ前大統領率いる「欧州連帯」は議席を大幅に失い、わずか24議席にとどまった。
選挙結果はすべての政党が承認し、目立った選挙違反もなかった。前の政権与党が平和裏に権力を手放し、新人が多くを占める大統領与党が議会を掌握したことに、ロシアのメディアは驚きを隠さなかった。
クレムリンや、クレムリンに従順なロシアのメディアは、クリミアを併合、そしてウクライナ東部紛争が始まって以降の約5年間、ウクライナは「ファシストが政権を握っている」とレッテルを貼ってきた。
その「ファシスト」が平和裏に政権を手放したのだ。また、「ウクライナは偏狭な民族主義者が権力を握っている」と批判してきたが、彼らの言う「ウクライナの偏狭な民族主義者」らは次々と落選した。
ロシアの知識人らの間では「ウクライナのような平和裏な政権交代は、ロシアでは望めない。ロシアとウクライナと、どちらがファシスト政権なのか、今回のウクライナ議会選が明確に示した」などと自嘲する声が出ている。
ゼレンスキー大統領は、これまでのウクライナの大統領が成し得なかった、単独過半数を持つ与党を手に入れた。その「国民の奉仕者」と、第2党の「野党プラットフォーム」は、「かつて戦争政党を支持した人々から信任を得た」と語っている。
ロシアは2014年2月にクリミアを併合した。その後、ウクライナ東部紛争が始まった。前回のウクライナ最高会議選挙は、反露感情が極限にまで高まった同年11月に行われ、ロシアとの対決を訴える勢力が議会を掌握した。
彼らの多くが今回の議会選で退場した。一方で、まだ具体的な政治方針が見えていないゼレンスキー氏の与党と、親露派の「野党プラットフォーム」が議会の3分の2を占めた。対露政策が大幅に変わる可能性もあり、ウクライナでは保守派などから懸念の声も出ている。
また、欧米など国際社会も、ゼレンスキー政権の行方を慎重に見極めたい構えだ。国際通貨基金(IMF)は昨年12月、ウクライナに対し14カ月にわたり、39億ドルの金融支援を行うスタンドバイ取り決めを決定し、直後に19億ドルの融資を実施した。しかし、次の融資の実行について、IMFはその決定を今年秋に延期した。
IMFなどの懸念の一つは、ゼレンスキー政権が検討を進めている農地売買の解禁の行方だ。早ければ2019年中に実施する可能性もある。
財政難に苦しむ政府は、農地売買の解禁により大型投資を呼び込み、経済活性化につなげる考えだ。しかし、土地流通などに関する法整備は進んでおらず、大きな混乱を招く可能性も指摘されている。
対露政策、そして、農地売買解禁などの内政をめぐり、秋にスタートするウクライナの新議会では、激しい議論が展開する見込みだ。