欧州議会選でEU懐疑派が台頭
欧州連合(EU)離脱を控えた英国のメイ首相が、今月下旬の欧州議会選挙への英国の参加を表明した。EUは非公式首脳会議で英国離脱後の将来を見据えた27カ国の結束を確認したが、EU懐疑派の台頭するEUでは、欧州議会選で、次期欧州委員会委員長の選任もあり、EUは大きな節目を迎えている。
(パリ・安倍雅信)
3分の1以上で立法阻止
仏国民連合、欧州委員会への権力集中批判
EUは9日、ルーマニア中部シビウで英国を除く加盟27カ国の非公式首脳会議を開き、EUの将来像をまとめた「シビウ宣言」を採択した。特に10月末までに英国がEUを離脱することを前提に、宣言では「何があっても団結する」と結束の意思を強調した。
EUは今月23~26日に5年に1度の欧州議会選挙を実施し、その後、EUの執行機関、欧州委員会の委員長の選任も行われる。議会と欧州委員会の新体制発足を前に、首脳会議では今後5年間に取り組むべき政策課題についても幅広く協議されたと伝えられた。
今年はEUにとって重大な節目の年であることに間違いない。特に欧州議会選挙は、今後5年間の政治に大きな影響を与える。フランスをはじめ、加盟国内にはEU懐疑派やポピュリズム(大衆迎合主義)政党が勢いづく傾向があり、欧州議会の過半数を占めていた中道右派、左派の2大会派に対して、EU懐疑派が3分の1以上の議席を占めるとの予想もある。
フランスでは、黄色いベスト運動でマクロン氏が創設した中道の与党・共和国前進(REM)が支持を失う中、2014年の前回欧州議会選挙で、約25%のトップの得票で24議席を獲得したマリーヌ・ルペン党首率いる国民連合(RN)が攻勢を強めている。
RNは先月15日、欧州議会選挙に向けた公約プログラムをルペン党首が発表し、EUの体制が欧州委員会に権力が集中する「欧州連邦制だ」と批判、「国家の集合体としての欧州」を目指すことを強調し、機構改革に取り組む方針を打ち出した。これは2年前の仏大統領選で候補者として主張していた「EU離脱・ユーロ脱退」路線からの政策転換だ。
EU機構改革では、条約改正で欧州委員会を廃止し、加盟国の閣僚と元首で構成される閣僚理事会に法案提出権を付与すべきとしている。また、加盟国は各国の国益に応じてEUと政策協調するかは自由選択とするとの具体案を出している。
5月初頭の欧州議会選についての世論調査では、RNは仏国民議会で過半数を占めるREMや野党第1党の中道右派・共和党(LR)をしのぎ、トップに立っている。RNは、穏健な福祉国家モデルを擁護する方向に転換し、今回はEU離脱からEU改革に方針転換している。
イタリアの極右政党「同盟」を率いるサルビーニ副首相が欧州議会選に向け、加盟各国のポピュリズム政党に対して、過去にないレベルでの連携を呼び掛けている。ドイツのEU懐疑派の右派「ドイツのための選択肢」(AfD)も連携の構えだ。
一方、離脱前の最後の欧州議会選参加とみられる英国では、離脱強硬派の急先鋒で欧州議会議員のファラージ氏が先月、ブレグジット党を立ち上げ支持を伸ばし、EU懐疑派には追い風となっている。ただ、加盟各国のポピュリズム政党が政策面で一致しているわけではなく、離脱後に何が起きるかを想定していなかったファラージ氏への批判の声もある。
EU懐疑派が選挙で3分の1を超える計255議席を上回った場合、議会の立法手続きを阻止できるため、議会運営は難しくなる可能性もある。2大会派の中道右派「欧州人民党」と中道左派「社会民主進歩同盟」はそれぞれ第1、第2会派の座を守ったとしても、合計議席が過半数を割り込めば、1979年の直接選挙導入後初めての事態となる。欧州委員会の次期委員長ポストをめぐる加盟国間の攻防も激化しており、新体制発足以降も、いくつものハードルが待ち構えている。