EU、難民受け入れで課題山積

人道的支援にも限界

テロリスト流入の恐れも

 第2次世界大戦後、最大規模の移民・難民が押し寄せている欧州連合(EU)では、12万人の難民受け入れと加盟国に対する割当制度を設けることを決めた。だが、押し寄せる難民は、その数倍規模であるだけでなく、国籍を偽って難民申請を行う者やイスラム過激派活動家も含まれ、今後も課題が山積みだ。人道的見地と実際にアラブ・アフリカ系移民と共存することの困難さのはざまで欧州の苦闘は続いている。(パリ・安部雅信)

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21日、クロアチアから国境を越えハンガリー西部の野原を進む難民たち(AFP=時事)

 流入する難民を最も受け入れているドイツの内務省報道官は25日、シリア難民として同国に入国する移民の中の約3割が、実際は他国の出身者と推定されるとの見解を明らかにした。同見解は、あくまで現場で対処する移民・難民管理官や連邦警察官から得られた情報で、正確な統計数値ではないとしている。

 豊かな暮らしを求め、シリアやイラク、アフリカ諸国から欧州を目指す経済移民は、この数十年間、後を絶たない。通常、難民として認定されるのは、出身国が政情不安による内戦や周辺国との戦争で生活できる状態にない人々が対象だ。

 スペインのラホイ首相は、今回の難民受け入れに対して「経済移民と紛争難民は明確に分けるべきだ」と語っている。EU加盟国はここ数年、経済移民に関しては、受け入れのハードルを高くしており、フランスでも国家にとって有益な能力のある移民しか受け入れない方針を打ち出している。

 結果として経済的な理由で欧州を目指す移民にとっては、移民申請は非常に困難な状況だ。そのため今回のシリア紛争を利用して、シリア人に成り済ませば、紛争地域からの難民と認定される可能性が高いと考える移民希望者も少なくない。

 ドイツ内務省報道官は、シリアの母国語であるアラビア語を全くしゃべれない人がシリア難民として申請を出すケースもあると述べている。既にトルコの犯罪組織が、シリアの偽装パスポートを大量に売買しているという情報もある。

 EUは22日、内相理事会で、今後2年間で12万人の難民を受け入れ、加盟国で分担することを決めた。その数は今年欧州に押し寄せる難民や移民が50万人に上るとの予想からすれば、厳しい数字と言わざるを得ない。さらに合意に最後まで抵抗した中・東欧諸国に対して、罰則規定を設けられなかったため、具体的な受け入れで抵抗する可能性もある。

 そこに今度は難民申請の受け付けを開始してみれば、ドイツのように偽造パスポートで不法に難民申請する人たちの存在が明らかになり、不信感が広がった形だ。さらに翌23日、EUは緊急首脳会議を開き、難民の大規模な受け入れセンターをギリシャ、イタリア、ブルガリアに今年11月までに設置することで合意した。

 さらに国連機関を通じた難民支援を少なくとも10億ユーロ(約1300億円)増額することも決めた。また、同首脳会議では、欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)の予算・人員の増加でEUと外部との国境管理を強化することでも合意した。

 移民大量流入問題では、レバノンなどの難民キャンプで暮らすシリア難民が、シリアの政情安定化は望めないとして、欧州への移動を試みる例も多い。また、難民キャンプも劣悪な環境に置かれ、食糧や教育問題が危機的状況にある。

 そのため、予算が数億㌦規模で不足する世界食糧計画(WFP)や、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などへの拠出をEUは増額して難民の生活支援を強化し、欧州への流入を元から止めたい構えだ。だが、既に難民キャンプでの生活は長期化しており、多くの人々が欧州への移動を希望している。

 今回の難民大量流入で、欧州はさまざまな試練にさらされている。まずは、難民に紛れ込んだイスラム聖戦主義に感化されたテロリストの流入だ。フランスの日刊紙ルモンドやル・フィガロ、ドイツの日刊紙ウェルトなどのメディアが、既に流入しているという記事を掲載している。

 もう一つの問題は、EUが保障している人と物の移動の自由が麻痺(まひ)状態にあることだ。特にドイツなどの旅券検査を廃止するシェンゲン協定加盟国が、国境で検問を開始しており、流通にも深刻な影響を及ぼしている。

 さらに難民受け入れで難色を示すポーランドやハンガリーなど中・東欧諸国と他の加盟国との関係に亀裂が生じていることも問題視されている。これは経済的な問題だけでなく、人種や宗教問題も浮上し、EU憲章に抵触するような対立が起きている。

 旧共産圏の中・東欧諸国は、キリスト教を背景とする人道主義への理解が希薄な上、ハンガリーのオルバン首相のように「われわれはシリア人とは人種も違い、イスラム教徒と生活したくない」と露骨な宗教差別を口にする政治家もいる。信教の自由、難民の庇護(ひご)をうたうEU基本権憲章に違反する発言とも取られている。

 しかし、現実にはドイツのように最多の難民を受け入れている国でも約2割の国民が移民受け入れに反対し、難民センターへの襲撃事件も起こしている。フランスでもアラブ系移民の流入に反対する右派政党が支持を伸ばしている現状もある。

 フランス国営TVフランス2は夜のニュース番組で「誰もが難民を支援すること以上に重要なことはシリアの内戦を終わらせることだ」と指摘している。緊急避難には対応したとしても、根本的解決からは程遠いというのが大方の見方だ。