テロの脅威高まるフランス 警戒強める産業関連拠点
工場での爆発事件相次ぐ
革命記念日の14日、南仏マルセイユ近郊の石油化学工場で爆発が起き、テロ事件として捜査が進められている。今年1月にパリで発生した風刺週刊紙シャルリエブド編集部への襲撃など一連のテロ事件以降、イスラム聖戦主義過激派によるテロの可能性がフランスで最高度に高まっている。(パリ・安部雅信)
過激派掃討作戦の報復か
フランスでは、毎年恒例の革命記念日の祝典が行われた14日未明、マルセイユ近郊ベール・ベタンの石油化学工場内2カ所で爆発が起きた。死傷者はいなかったが、仏内務省は「事故ではなく、犯罪行為」として捜査を進めている。
爆発が起きた化学工場を所有するリンデルバゼル社は米国とオランダに本社を置く世界的石油化学メーカーで、爆発はガソリンなどの入った二つの貯蔵タンクで起きた。当局は5日に爆発現場から20㌔離れたミラマの軍補給基地で、起爆装置少なくとも150個やプラスチック爆弾、手榴弾(しゅりゅうだん)が盗まれた事件と関連したテロ事件とみて捜査を進めている。
当局は、爆発現場でミラマから盗まれた物と同じモデルの起爆装置が発見された他にも、同様な起爆装置が他のタンク周辺でも見つかっており、同時に3カ所以上のタンクを爆発させようとして失敗したとみている。また、現場を囲むフェンスに穴が空いていたことから現場を入念に調査し計画的に実行されたものとみている。
一方、南東部リヨン郊外のイゼール県サン=カンタン=ファラビエにある米国系ガス会社エアプロダクツのガス工場で6月26日朝、爆発があり、爆発現場から斬首された男性1人の遺体と2人の負傷者が発見される事件が起きた。現場にはアラビア語が書かれた白黒の旗も残されていた。
事件現場で逮捕されたヤシン・サリ容疑者は、配送ドライバーとしてバンでエアプロダクツ工場内に入り、車ごと倉庫にあったガスボンベに突っ込み、爆発させた。現場にいた工場責任者の首を切断して殺害し、別の場所にあったガスボンベを爆発させようとしたところを消防隊員に取り押さえられ、駆け付けた憲兵隊員に逮捕された。
逮捕されたサリ容疑者は、フランス生まれで3人の子供の父親、半年前からリヨン郊外のサン=プリストに妻と3人の子供と住み、今年3月から配達ドライバーとして働いていた。仏当局は2006年からイスラム過激思想に感化された人物として把握し、08年の更新で犯罪歴がないことから、監視対象から外されていたという。
フランスには欧州連合(EU)が定めるテロ警戒に指定された産業警戒地区(通称セベソ指定地区)が、1171カ所ある。うち145カ所は、ガス爆発が起きたサン=カンタン=ファラビエのあるローヌ・アルプ地方に集中しており、6月末からローヌ・アルプ県は最高レベルのテロ警戒態勢が敷かれた。
一方、カズヌーブ内相は、今月13日に同国のテロ対策当局が国内の軍事施設へのテロ攻撃を計画していた疑いがあるとして元海軍兵士1人を含む4人の身柄を拘束したことを明らかにした。逮捕された容疑者(16~23歳)のうち、16歳の少年は計画から外されていたとして釈放された。
3人の自供から、スペイン国境沿いの海軍監視基地への攻撃を行う計画を立てていたことが判明した。3人のうち元海軍1等水兵だった1人は、標的の基地で数カ月間、監視員として配属されていた経歴があり、内部に精通していた。また、首謀者とみられる17歳の容疑者は、シリアの過激派組織「イスラム国(IS)」メンバーと連絡を取り合っていたとされる。
実際には3人は一度も会っておらず、ソーシャル・ネットワークや聖戦主義を広める過激派組織の運営するウェブサイトで知り合い、計画を準備していたとみられている。また、首謀者の男は聖戦主義に染まり、シリア行きを希望していたことが確認され、当局の監視対象になっていた。
6月末から起きた工場での2件の爆発テロ事件と逮捕された3人との関係は分かっていない。また、7月5日に武器弾薬倉庫から起爆装置などを盗み出した犯人は見つかっておらず、不明な点はまだ多い。カズヌーブ内相は、聖戦主義活動に関与する仏国民は約1850人で、シリアやイラクに渡って活動を続ける仏人らは現在500人近いとしている。
フランスは米国が主導するイラクのIS支配地域への空爆に参加しており、さらにはアフリカにおいても、イスラム過激派の掃討作戦などを展開している。そのため報復テロの標的となっており、仏内相は「最近はテロの脅威が最高レベルに高まっている」としている。
エコロジー・エネルギー相のロワイヤル氏は、年内に全セベソ地区の安全対策について約1300の専門エージェントを動員して検査を行うと発表した。フランスではこの他にもテロの標的となる可能性が高い原子力発電所を多く抱えており、内務省、防衛省、経済省、エネルギー省が連携して警戒を強めている。











