仏県議会選挙で野党連合圧勝
右派国民戦線が台風の目
3月末に実施されたフランスの県議会選挙で、最大野党の国民運動連合(UMP)を中心とした中道右派連合が圧勝した。いまだ国民の間で景気回復が実感できず、雇用不安が消えないため国民の不満が与党・左派勢力の退潮をもたらした形だ。その一方で右派・国民戦線(FN)は大躍進を遂げ、国民の支持基盤を確実にしている。(パリ・安部雅信)
既成政党への不満の受け皿に
2月22日と29日の2回にわたって実施されたフランスの全国県議会議員選挙結果は、UMP、中道民主運動(MoDem)、民主独立連合(UDI)から成る中道右派連合の圧勝で終わり、与党左派連合である社会党(PS)その他の左派政党は、右派のFNを得票率では下回る3位と大敗した。
県議会選は全国101県で実施され、全国の総議席4108議席をめぐって争われた。事前の予測ではFNが第1党となる世論調査結果もあったが、得票率で中道右派連合の29%に次ぐ2位で、左派連合の21・9%を上回った。
特に第1回投票では大勝し、マリーヌ・ルペンFN党首は、「FNは単独では第1党の政党」「FNと中道右派の2大政党制が誕生した」と自画自賛した。第2回投票を終えた結果では、FNはどこの県議会でも多数派を占めるには至らなかったものの、2017年に実施予定の大統領選に向け、大きな布石になったことは間違いない。
選挙結果としては、選挙前に左派は61県議会で多数派を占めていたのが半減し、右派は多数派だった40県議会を67県に伸ばし、自治体での政党勢力地図は完全に塗り替えられた。バルス仏首相(社会党選出)は「国民は失業や生活苦への憤りを表した」と敗北を認める声明を出し、雇用創出優先に取り組んでいく考えを表明した。
今回の選挙は、従来、6年任期で3年ごとに半数を改選していた制度を全議員の一斉改選にするよう改正した後に初めて行われた選挙だった。当然、これまで以上に国政の行方に影響を与える意味を持ち、2年後に迫った大統領選にも大きな影響を与える。
もう一つ今回の選挙の特徴は、政治における男女比率の是正のために男女ペアで2人ずつ候補者を立てることを義務付けたことで、この試みは世界的にも注目を集めた。その結果、全国で新たに2054人の女性県議が誕生し、改選前はわずか14%だった女性議員比率は50%になった。
この新制度では、女性の政治参加を促進し、有権者も女性候補者を支持せざるを得なくすることで男女同権の推進につながるという賛成意見がある一方で、女性の政治参加を強制するのは政治参加に与えられた自由の権利を損なうとの批判もあった。結果的にはペアを組むことに苦戦したPSは大敗し、選挙協力が十分でなかったことをバルス首相も認めている。
フランスは欧州内でも北欧諸国に比べ、女性の政治参加が遅れている国と批判されてきた過去がある。政治における男性優位は今も続いており、サルコジ前政権で女性大臣を増やしたりしたもののいまだ大きな進展はない。その意味で今回の男女ペア候補制度は強制的に議員を男女同数にする試みになったわけだが、課題も残したようだ。
一方、FNは県議会の多数派を占める県はなかったものの、これまで全国で2議席しかなかったのを62議席に伸ばした。サルコジ前政権時代には、FNがUMPの支持者を奪っているとの危機感から、UMPは移民への厳しい姿勢を取り、FNとUMPの違いが不明確との批判を受けた。
しかし、現在FNを率いるマリーヌ・ルペン党首は、反共と移民排撃を旗印に掲げる極右路線から、現在の既存政党に不満を持つ幅広い層を取り込むため、ナチズムや反ユダヤ主義から距離を置いている。欧州連合離脱路線は変更していない一方で、社会保障の充実など社会政策重視を訴え、今回の選挙では左派支持者の票も取り込み、脅威になっている。
この構図は2017年の大統領選挙まで続くことが予想される。その一方で今年1月に起きたイスラム過激派による風刺漫画週刊紙シャルリエブド襲撃テロ事件などを受け、国民のイスラム系移民に対する嫌悪や不安が、FNには追い風だったことも否定できない。
今回は101県のうち、FNが第1回投票で第1党となったのは43県に上ったにもかかわらず、結果的にはどの県でも過半数の議席を得ることはできなかった。その理由は第2回投票に残った候補者が当選を確実にするため、政党間で調整を行うわけだが、中道右派連合にしろ、左派連合にせよ政党間で候補者を絞り込むことが容易だったのに対して、FNは他の弱小極右政党としか協議できなかった事情がある。
とはいえ、既存大政党の不満票の受け皿としてのFNは、確実に支持を伸ばしている。FNはこれまで極端な排外主義、過激な発言で「悪魔政党」と揶揄(やゆ)されることも多かった。だがルペン党首はFNの「脱悪魔化」を何度も主張している。複数の政治アナリストたちは「今やFNは単なるポピュリズムの弱小政党の域を超えた政党になった」とも指摘している。
今回の県議会選で大勝したUMPは、次期大統領選挙をにらみ、大きな一歩を踏み出そうとしている。その一つがサルコジ前大統領の出馬の可能性が高まっていることだ。「努力する者が報われる社会」を標榜(ひょうぼう)し、07年に大統領に就任したサルコジ氏は、現在60歳。大統領時代にぜいたくな暮らしなどが批判を浴びた一方、リーマン・ショックやギリシャ危機に直面した経験もあり、サルコジ待望論は根強い。
今年12月には地域圏(州)議会選挙が行われる。そこでもUMPやFNの支持拡大は続くと予想されている。オランド左派政権の任期は残り2年だが、政権運営はさらに厳しさを増しそうだ。