欧州の航空業界に衝撃 副操縦士「燃え尽き症候群」か

独旅客機墜落受け精神面のケア課題に

 スペイン・バルセロナ発ドイツ・デュッセルドルフ行きのドイツのジャーマンウィングス機(エアバスA320、乗客144人、乗員6人)がフランス南東部アルプス山中に墜落した件を捜査中のドイツ・デュッセルドルフ検察当局は27日、墜落原因が機体の技術的欠陥ではなく、アンドレアス・ルビッツ副操縦士(27)が意図的に飛行機を墜落させた可能性が高いこと、副操縦士が医者から勤務不能な精神的状況にあるという診断書を受け取りながら、乗務していた証拠が見つかったことなどを明らかにした。欧州の航空業界に大きな衝撃を与えたドイツ機墜落のこれまでの経過をまとめた。(ウィーン・小川 敏)

操縦室の2人体制実施へ

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アンドレアス・ルビッツ副操縦士=2009年9月、独ハンブルク(EPA=時事)

 独メディアによると、副操縦士は14歳の時から飛行機を操縦することが夢だったという。地元の飛行学校で学び、操縦士の道を歩みだし、2008年には独ルフトハンザでパイロットの訓練を受けたが、「燃え尽き症候群」にかかり、訓練をいったん中断。その後、再度チャレンジしてルフトハンザ社や米国で飛行訓練コースを完了し、13年からルフトハンザ航空の傘下のジャーマンウィングス社に勤務。これまでの飛行時間は約630時間だった。

 副操縦士の出身地では「真面目で寡黙な青年だった」という声がほとんどだ。彼が精神的に悩み、ひそかに精神科医に通っていたことを知っている者はいなかった。副操縦士の自宅(独西部デュッセルドルフ)とモンタバウアーの実家を捜索した独検察当局によると、副操縦士は今年に入り、医者から乗務不能という診察書を受け取っていたという。しかし、容疑者はその診断書を破り捨て、24日も乗務し、149人が搭乗していた飛行機を急降下させ、アルプス山壁に衝突、墜落させたというのだ。この時点で明らかに殺人行為と言わざるを得ない。

 独メディアによると、彼は「燃え尽き症候群」に悩んでいたという。デュッセルドルフ検察当局は「容疑者が鬱病だったという診断は見つかっていない。精神科医にかかり、治療を受けていたことは事実だ」という。正式な病名はこれまで明らかにされていない。

 医者の助言にもかかわらず、副操縦士が搭乗したことについて、「会社に精神的な病にかかっていることが分かれば、二度と飛行機を操縦できなくなるばかりか、職場を失う危険性がある」といった不安があったのではないかという。

 欧州の航空各社は、機長がコックピットを離れた直後、副操縦士がコックピットのドアを内側から閉め、機長を入れなくさせ、飛行機を急降下させて墜落させた今回の惨事を深刻に受け止めている。そこで「コックピットを一人にするのは危険だ。1人のパイロットがコックピットを離れた時、必ず他の乗務員がコックピットに入り、コックピット内を常に2人体制で維持すべきだ」という危機管理を即実行に移すことになったわけだ。

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26日、ドイツ西部デュッセルドルフで、副操縦士のアパートを捜索し、押収品を運び出す捜査員(dpa=時事)

 米国航空会社は2001年9月11日の米国内多発テロ事件直後、コックピット内の2人体制を実施しているほか、欧州航空会社の一部でも既に実行中だ。なお、事故を起こしたルフトハンザ航空やジャーマンウィングス社も「コックピット2人体制」の即日実施を決定している。

 独仏両国の捜査結果を待たなければならないが、問題は精神的な病に悩む副操縦士がどうして搭乗できたのか、パイロットの精神的チェック体制に欠陥はなかったかなど、新たな問題が浮かび上がっている。

 ジャーマンウィングス社の親会社ルフトハンザ航空は「パイロットの採用には厳しい審査と訓練を課してきたが、今回の件を生かし、さらに改善していかなければならない」と表明している。

 独の精神科学者は「がんと言えば、同情されるが、例えば、鬱となれば、外的に分からないこともあって、理解されにくい。そのため、一人で悩み、時に、絶望的な行動に走ってしまう」と分析している。

 多数の尊い命が犠牲となった今回、欧州の航空各社は、コックピットの2人体制など危機管理に乗り出す一方、飛行に関わるパイロットや乗組員のメンタルケアにもこれまで以上に注意を払う必要が出てきた、と受け取っている。