ローマ法王がトルコを訪問、反イスラム国で動き出した宗教界
宗教指導者に共闘呼び掛け
カリフ制国家の樹立を宣言したイスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国(IS)」による蛮行に対し、世界の宗教界が動き始めた。フランシスコ・ローマ法王は、国民の99%がイスラム教徒であるトルコを訪問、イスラム指導者にイスラム国批判をするよう強く求めた。(カイロ・鈴木眞吉)
スンニ派最高権威 イスラム教徒への教育抜本改革誓う
法王がトルコを訪問したのは11月28日から3日間。首都アンカラで、イスラム教の重鎮ギョルメ宗教庁長官やエルドアン大統領らと会談した。
長官との会談後、法王は、「宗教の違いを超えて、対イスラム国で共闘すべきだ」と訴え、同庁幹部らの前でも、イスラム過激派による「少数派宗教勢力への迫害」を批判した。
キリスト教は「他宗教への改宗に寛容」なのに対し、イスラム教は「改宗は死」として、断じて許容しない姿勢を堅持しており、「イスラム教徒の増加とキリスト教徒の減少」を促進する一因と指摘されている。20年後には、イスラム人口がキリスト教人口を上回る可能性が高く、法王としては座視できないところ。
法王は特に、最近の中東地域からのキリスト教徒流出を憂いており、エルドアン大統領との会談後の記者会見でも、「すべての市民、イスラム教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒が、法の定めと実践において、同じ権利を持ち、同じ義務を果たすことが不可欠だ」と述べた。
これに対し、エルドアン大統領は、「深刻なイスラム恐怖症が急速に広がっている」と述べ、法王の批判する「イスラム主義勢力による野蛮な横暴」を「イスラム恐怖症」とかわし、自身の責任逃れとイスラム教擁護の姿勢に徹した。
しかし法王の本音は帰国途上の機内で出た。世界中のイスラム指導者に対し、「イスラムの名の下に行われているテロリズムを明確に否定するよう」呼びかけたのだ。
法王は、エルドアン大統領にも、「世界のイスラム指導者たちが、こぞって、過激派の暴力を否定したら、どんなに素晴らしいことか」「その声は『多くのイスラム教徒を助けることになるだろう』と伝えた」と述べた。
一方、2001年の米同時多発テロ以来、イスラム教が世界的に批判されることを極度に警戒し、守りの姿勢に徹してきた感のあるイスラム指導者は、「イスラム国」の出現で国内外からの批判が新たに高まったことを受け、「自分たちに問題があった」ことを認め、更には、攻勢に転じ始めている。
エジプトのスンニ派の最高権威アズハルのグランド・イマーム、アフマド・タイエブ師は12月3、4の両日、国内外のイスラム教、キリスト教指導者らを招集して「アズハル国際会議」をカイロで開催、イスラム国出現に対するイスラム指導者の責任を認め、イスラム指導者・信徒への抜本的教育改革を誓った。
主催者によると、会議への参加者は、キリスト教の各派代表も含め120カ国から約700人。
タイエブ師は冒頭のあいさつで、「われわれは目を閉じてはならず、誤解して過激派に合流する若者に責任を持たねばならない。彼らはジハード(聖戦)の意味について誤解している」と指摘、イスラム教徒の聖典コーランの節や句について、「イスラム指導者が正しく指導する責任がある」と強調した。
これは、「過激主義者らはイスラム教徒ではない」として、「トカゲの尻尾切り」に徹した姿勢を根本的に改めたもので、全イスラム教徒の教育に、アズハルが全責任を持つ姿勢を表明したものだ。
この姿勢変化の背後には、キリスト教会からの強い指摘もさることながら、エジプトのシシ大統領が10月28日、「イスラム教徒の穏健化教育にアズハルが責任を持たねばならない」と主張、近年の発展に照らしたコーラン解釈の一新の重要性を強調したことが最大の動機になったものとみられる。
タイエブ師はバグダディ容疑者の「カリフ宣言」についても、「カリフを選ぶ必要はない」と公式に否定した。
エジプト宗教財産省のモハメド・ゴマア師は「聖戦」や「カリフ」の真の意味を説明できるイマームをモスクで訓練し、「文化センターや大学、ユースセンターで大々的な教育を実施する」と明言、「会議がターニングポイントになる」と指摘、激変への期待感を表明した。
同会議は4日、「アズハル国際宣言」を採択し、閉幕した。






