仏大統領は史上最低の支持率続く
景気浮揚に打つ手なし
社会民主主義終焉を象徴
フランスのオランド大統領が任期5年間の前半を終え、史上最低の支持率を記録し続けている。自ら雇用政策の失策を認めたものの、景気浮揚策で打つ手がなく、政権内の不協和音も取り沙汰されている。オランド氏の支持母体である社会党も弱体化しており、一時は欧州を席巻した社会民主主義の衰退は顕著になっている。(パリ・安倍雅信)
2012年の大統領選で中道右派のサルコジ前大統領を破ったオランド大統領は、緊縮よりも景気浮揚を優先する経済政策を公約に掲げて当選した。社会党選出の大統領誕生は17年ぶりで、当時、ドイツのメルケル首相と二人三脚でユーロ信用不安に立ち向かい、緊縮政策を推し進めていたサルコジ政権とは逆の方針を打ち出し、注目を集めた。
就任当初は最低賃金の引き上げや前政権が定めた付加価値税(消費税に相当)引き上げの撤回の公約などの実現に邁進(まいしん)した。だが、富裕層や大企業に対する増税など、反企業的な公約を掲げて就任したオランド大統領は、わずか半年でその方針を大幅に転換、国民を驚かせた。
政府は、航空宇宙・防衛大手EADSの前最高経営責任者のガロワ氏に景気浮揚策の策定を依頼し、結果として社会保障税の雇用主負担分を200億ユーロ削減し、代わりの財源としては、付加価値税と社会保障税の増税を行う政策を打ち出した。企業減税は、左派政権としては真逆の方向でもあった。
結果的には、景気指標を表す失業率が増加し、最新の調査では失業率10・5%、343万人が失業状態にあり、回復の兆しはまったく見えていない。任期前半を終える中、TVインタビューで、オランド大統領は失業対策の失策を認め、「誰にでも間違いはある」と居直ったような発言を行った。
最近、議会で追及を受けたレブサマン仏労働相も「率直に言って失敗だった」と雇用対策がうまくいかなかったことを認める発言を行っている。フランスはこの20年、常に失業問題が政治の中心的争点となっている。
社会保障制度と被雇用者寄りの雇用制度が連動するフランスの制度は、1980年代、ミッテラン社会党政権の時代に構築された。そこに社会保障目当てのアフリカからの移民がなだれ込み、恩恵だけ受け、国の経済には貢献しないとの批判を受け、移民排撃の右翼政党の支持基盤を拡大する結果となった。
ミッテラン左派政権への反動から、95年には右派のシラク大統領が登場したが、失業率が高止まりする中、97年には総選挙で左派が議会の多数派を占め、社会党のジョスパン首相が政権を握った。同じ年、英国には労働党選出のブレア首相が政権の座に就き、翌年にはドイツで社民党のシュレーダー首相が選ばれた。
だが、社民党では中道寄りのシュレーダー氏は、「新しい道」をキャッチフレーズに、企業寄りとも言える政策を打ち出した。2003年には経済のグローバル化を視野に成長戦略である改革プロジェクト「アゲンダ2010」を発表したが、成果は出なかった。政権末期の05年には戦後ドイツ最悪の500万人に上る失業者数を記録した。
一方、ブレア首相は労働市場の環境変化に対応し、支持基盤の重心を労働組合から中流階級以上に移した。自由主義経済を支持しながら、格差拡大の抑制などで左派政権らしさを出したが、保守のサッチャー政権が敷いた国民の自立・自助路線を踏襲した。
ジョスパン政権は、週労働35時間制や期限付き雇用などを実施したが、失業対策で結果を出せなかった。さらに移民を優遇したために国民からは反感を買い、極端に治安が悪化した。結果、02年の大統領選では第1回投票で右派のルペン候補に敗れた。
07年の大統領選挙で選出された中道右派、国民運動連合選出のサルコジ大統領は、国民から大きな期待感を持たれた。「努力する者が報われる社会の実現」をキャッチフレーズにしたサルコジ氏の政策は、政府には頼らない国民一人一人の努力が新鮮な主張だった。富裕層の高率の税金を引き下げると宣言し、国外に逃げた富裕層が戻ってきた。
だが、サルコジ政権には08年のリーマンショック、続くギリシャに端を発した財政危機によるユーロ信用不安で、景気回復は思うようにいかず、失業率も一時的に8%台まで下がったが、9%台を推移した。加えてトップモデルとの再婚や派手な私生活が不況に苦しむ国民の反感を買い、12年の大統領選でオランド氏の前に敗北した。
そのオランド大統領も就任から2年半が過ぎるが、私生活で生活を共にするパートナー女性とは別に仏女優ジュリー・ガイエさん(42)との密会が今年1月に発覚し、不人気に追い打ちを掛けた。社会党内ではオランド政権に対して、弱者支援重視の旧来の左派が、欧州連合(EU)の定める財政健全化目標に重点を置き過ぎていると政府を批判している。
8月末の内閣改造で、金融界出身のエマニュエル・マクロン氏(36)が経済相に任命された。だが就任早々、女性など弱者労働者を蔑視するような失言を行い、批判された。法人税減税など企業寄りの成長戦略と、EUの財政ルール順守の両立を目指す経済政策が政府の重点課題だが、社会党内の抵抗も強い。
大陸欧州で強い影響力を持った社会民主主義は、グローバル化の中で説得力を持たなくなった。右派、左派ともに中道化し、政党理念で特徴を出せず、逆に極右や極左だけが存在価値を示している。3月のフランスの統一地方選挙では、右派・国民戦線が大躍進し、5月の欧州議会選挙では国内最大の得票率を得た。
17年の次期大統領選に向け、社会党内では「オランド氏では戦えない」との声が上がっている。残された2年半で雇用問題が飛躍的に改善されなければ、再選は難しいことをオランド氏自身が認める発言を最近行っている。いずれにしても社会民主主義は、高い失業率を前に無力化し、衰退は顕著になっている。