欧州委員会、ユンケル新体制発足へ

ユーロ圏経済立て直しへ

加盟国との協調目指す

 ユンケル次期委員長率いる欧州委員会の新体制が22日、欧州議会で承認され、11月1日に発足することになった。ユンケル新体制の優先課題は停滞するユーロ圏経済の立て直しだ。利害関係が対立する加盟国との協調を優先しながらも、モノ、ヒト、サービスの自由移動という単一市場の原則は堅持する方針だ。
(ロンドン・行天慎二)

成長戦略を前面に

単一市場の原則は堅持

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ユンケル次期欧州委員長=9月10日、ブリュッセル(AFP=時事)

 ユンケル次期委員長は欧州議会でのスピーチの中で、優先課題である欧州連合(EU)の経済改革問題に加盟国と一緒になって取り組みたいとの抱負を述べた。「広範な国家の連合と主要な政党が、3本の構造的柱である構造改革、財政信頼性、投資に関して協力するという大協定をする時だ。現在の経済的なチャレンジへの対応はトップ・ダウン式ではない。ブリュッセルは魔法の弾丸を撃つことも、(経済)成長のボタンを押すこともない。国家レベルとEUレベルでの構造改革、財政信頼性、投資が手を携えていかなければならない」と語った。

 2008年の金融危機とそれに続く欧州債務危機で、EU各国は金融引き締めと財政再建を最優先させた緊縮財政政策を採ってきたため、経済成長が停滞している。EU全体で実質国内総生産(GDP)成長率は昨年が0・1%であり、今年の成長予想率は1・6%でなお低い。失業率は昨年が10・8%、今年が10・5%の予想であり、依然として高いままだ。主要国の中ではフランスとイタリアの停滞ぶりが目立つ。EU経済牽引(けんいん)役のドイツも外需減少で成長率は昨年が0・4%で、今年は1・8%程度である。

 EU経済は今、投資促進で成長、雇用創出が願われている。ユンケル次期委員長は「雇用、成長、競争力のための3000億ユーロ(約40兆円)規模の野心的な投資策を提出するつもりだ」「きょう支持してくれるならば、クリスマス前に提出する」と述べた。

 EUの行政執行機関である欧州委員会は官僚主義的で加盟国や有権者の信任を得ていないとの批判がくすぶり続けている。5月に行われた欧州議会選挙では、英国やフランスでEU統合化と移民増加に反対する右派政党が躍進し、ギリシャ、スペイン、イタリアなどの南欧諸国でも反EUの極右や極左の政党が伸張した。これに関して、ユンケル次期委員長は「EUプロジェクトに活を入れる時だ」「われわれが行う全てのことに欧州社会モデルを描いたものが明白に見えるようにするのはわれわれ次第だ」と語り、加盟国と協調、協力してEU統合化を進める意思を表明した。

 特に英国では、EU機構による多くの規制措置を求める官僚主義の弊害や超国家的政治体制づくりへの警戒の声が大きい。04年から2期10年間務めて10月末で任期を終えるバローゾ委員長は20日、ロンドンで講演したが、「われわれの未来は、欧州の国民の一層の結合である。主権国家として行動しながらも国益となる結果を生み出すことができる所ではその努力と権限を自由に共同管理する」「要点は超国家への流れという問題ではなく、各国の権限に関してだ。一国が世界の中で権限と影響力を最大限にするにはどうしたらよいか。EUの中か外か」と問い掛けて、EUは加盟各国のために存在しており、そのために欧州各国の国民の団結が必要だと主張した。そして、欧州委員会はこうしたシステムの公平さを守る機関であり、その決定は加盟国が合意した上で履行され得ると指摘した。

 しかし、EU全体に適用される合意事項が加盟国によっては不利になるケースがある。現在、ユーロ圏のフランスやイタリアにとっては財政規律問題(一般政府財政赤字GDP比を3%以内、一般政府債務残高GDP比を60%以内に抑える)、英国にとってはEU移民増加問題がそれだ。英国では12年後半から移民数が再び増加し続けており、年間10万人を超えている。右翼の英独立党がEU移民阻止を掲げて急速に支持を集めており、大きな政治問題になっている。このためキャメロン英首相は無制限に流入可能なEU移民を制限する措置を検討中だ。しかし、これはヒト、モノ、サービスの移動の自由を認めるEUの基本原則に抵触することになる。

 ユンケル次期委員長は22日、BBCとのインタビューで「ヒトの移動の自由は1957年のローマ条約以来、欧州の協力の基本原則だ」「(基本的)諸規則は変えられない。変えられるのは乱用に対処する国家レベルの規則だ」と語り、英国はEU基本条約を順守する中で移民問題に柔軟に対応してほしいと注文した。

 ユンケル新体制も今後、加盟国の利害を調整しながらEU統合化をいかに進めるかの難問題を引き受けていかなければならない。