緊迫続くウクライナ情勢、外交手腕問われるEU

対露制裁効果に疑問も

 ウクライナ情勢が緊迫する中、欧州連合(EU)は事態の沈静化に向けた動きを加速化させている。EUの対ロシア制裁の効果が疑問視される中、ロシアは農畜産物の禁輸という報復措置を取り、EUにも被害が出ている。ウクライナとロシアの26日の首脳会談を控え、EUの外交手腕が問われている。(パリ・安倍雅信)

農畜産物禁輸で農家悲鳴

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22日、ウクライナ国境を通過したロシアの人道支援物資を積んだトラックにロシア国旗を振る住民(AFP=時事)

 ロシアの人道支援物資のトラック約280台が22日、ウクライナ政府の同意なしに国境を強行通過したことを受け、同日EUのアシュトン外交安全保障上級代表(EU外相)のスポークスマンは、「明確な国境侵犯行為に当たる」とロシアを非難する声明を出した。

 同日、北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長も「国際的な取り決めに露骨に違反する行為」と非難声明を出した。物資は政府軍と親ロシア派の戦闘が続くウクライナ東部ルガンスク州の州都ルガンスクに到着したが、赤十字国際委員会(ICRC)の先導ではなく同州を支配する親露派が先導する形で行われた。

 先導を断念したICRCは、戦闘が続くルガンスクの安全の保障が得られなかったことを理由に挙げたが、欧州メディアは300台近いトラックでICRCが中身をチェックできたのは1割強にしかすぎず、武器弾薬が積まれていた可能性は排除できないと指摘している。

 ロシアのプーチン大統領は、国境検問所で足踏み状態にあった人道支援物資のトラックの国境越えを指示したことについて、「さらなる遅れを容認するわけにはいかない」とドイツのメルケル首相に伝えたとされる。プーチン大統領はルガンスクでの食料・飲料水不足などの深刻化を挙げた。

 EUは26日に予定されるロシアとウクライナの首脳会談に同席する予定だ。同会談はベラルーシのミンスクで開催され、ウクライナ東部での紛争などについて協議する。会談には欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表率いるEU代表団が同席する他、ベラルーシのルカシェンコ大統領とカザフスタンのナザルバエフ大統領も出席する予定だ。

 プーチン大統領とウクライナのポロシェンコ大統領の両者が直接対面したのは6月のフランスでの会談以来となる。ウクライナ当局筋は、ウクライナ東部を支配する親露派への支援をやめさせるようプーチン大統領に外交的圧力を加えるチャンスと捉えているとしている。

 同会談では、ウクライナ情勢の安定化だけでなく、ウクライナ・EU協定やエネルギー安全保障、関税同盟などの議題も話し合う予定だ。そのため議題に関係する参加各国首脳の2者間会談も行われる。

 ロシアへの制裁を強めるEUは、ロシアが8月7日に制裁への報復措置として米欧からの農畜産品輸入を差し止めたことを受け、売り先を失った農産物への対応に迫られている。スペインでは、23万㌧近くの果物、野菜、生鮮肉、冷凍肉、オリーブオイル、ワインのロシアへの輸出がストップしたことで、農家が悲鳴を上げている。

 欧州委員(農業・農村開発担当)のチョロシュ氏は18日、EUの青果生産者に向けた総額1億2500万ユーロの支援を表明。同委員は共通農業政策の下の緊急措置の発動により、余剰な青果物の一部を除き、人道支援などの目的で無料分配する一方で、生産者の損失は補償すると説明した。EUは農畜産品の約10%をロシアへ輸出している。

 例えば、ロシア市場への輸出が制限されることによってスペインが被る損失額は、約3億3700万ユーロになると試算され、最も損失が大きいのが果物で、金額にして1億5800万ユーロとみられる。スペイン政府は「禁輸措置が取られたわが国の食品の割合は、全世界への輸出額総計の1・8%にすぎない」と火消しに躍起だ。

 しかし、スペインの農業従事者は「EUもスペイン政府も農家への正確なダメージを把握していない」として補助金の増額を求めている。この騒ぎはドイツなど他のEU諸国にも広がっている。実際、リトアニアはトマトなどの野菜・果物のロシア向け食品輸出額は国内総生産(GDP)の3%弱を占める。ドイツは食肉やソーセージ、オランダやフィンランドはチーズなどの乳製品を輸出しており、影響が懸念される。

 一方、英紙フィナンシャル・タイムズによれば、EU高官がブラジルやエジプトなどに対し、ロシアからの食料輸出拡大の要求に応じないよう働き掛ける意向を示したと報じている。ロシアへの包囲網を確実にしなければ、EUは報復措置で損害だけ受け、制裁効果を引き出すことができなくなるジレンマを抱えている。

 EUは8月に導入した制裁で、域内企業がロシアに北極海などの石油開発技術を提供することを制限した。これに対してロシア国営石油会社ロスネフチが、スイスの石油開発会社の一部買収、ノルウェーの海洋掘削装置の購入契約などを進め、EU非加盟国からの技術獲得に動きだしている。

 一方、ウクライナ危機を収束させるため、ウクライナのポロシェンコ大統領は、キエフでドイツのメルケル首相と23日に会談した他、30日にはブリュッセルを訪問、英国のウェールズで9月初旬に開催されるNATO首脳会議にも参加する。同大統領は外交活動を活発化させることで、ロシアへの圧力を加えることに奔走している。

 EUでは、次々に打ち出される対ロシア制裁措置の効果についてロイター紙などが疑問視する報道を行っている。ハンガリーのオルバン首相は、対ロシア経済制裁を導入したことで、ロシアよりEUに損害を与えたとし、EUに政策の見直しを呼び掛け、スロバキアのフィツォ首相は、制裁は「無意味」と批判し、域内経済成長の鈍化への懸念を示した。

 EUの制裁措置が寛大過ぎるとの批判がある一方、地理的に密接な関係にあるウクライナ危機の扱いについて、EUは外交的努力での解決を模索し続けている。その意味で26日のポロシェンコ・プーチン会談に参加するEUが、どこまで外交的影響力を与えられるか注目される。