スコットランド独立投票まで1カ月
英、連合王国体制見直しへ
スコットランド独立の是非を問う住民投票が9月18日に行われる。世論調査では独立反対派が半数以上で優勢だが、結果がどちらに出ても、英国は内政・外交の両面で現行体制の大きな見直しを迫られることになりそうだ。(ロンドン・行天慎二
半数以上で反対派優勢
国防、対外関係へ影響力大
最新の世論調査(今月4~7日実施)の結果によれば、反対55%、賛成35%で、反対派が半数を超えて優勢であり、スコットランドの独立は今回実現しそうにない。しかし、独立運動を推進しているスコットランド自治政府の政権与党であるスコットランド民族党(SNP)は、イングランドを基盤にした英政府の国政運営と決別し、歴史的な悲願を何としても達成したい思いだ。これに対して、英国の主要政党である保守党、労働党、自由民主党はいずれもスコットランド独立に強く反対している。
独立賛成派と独立反対派はこれまで積極的なキャンペーン活動を進めてきており、経済・通貨、エネルギー問題、外交・防衛、社会福祉、国籍・移民問題、などを論点に政策論争を展開している。5日に行われたテレビ討論会では、スコットランド自治政府のサーモンド首相が「スコットランドに住み、働いている人々以上に誰もスコットランドの運営をうまくやれはしない」と訴えた。これに対して、独立反対キャンペーンを指導しているダーリング元財務相は通貨、年金、税負担など個々の政策上の問題を指摘して、連合王国内にとどまる方が経済上有利だと主張した。独立派が愛国的な観点から訴えているのに対して、独立反対派は現実的観点から反論している格好だ。
一連の政策論争を通じて個々の政策内容が明確になる一方、識者の多くは独立投票の結果いかんにかかわらず英国の現行政治体制の根本的見直しが必要なことを指摘している。まず、英国の安保・防衛上の今後の方向性が重要問題に上がっている。SNPは核戦力の放棄を公約しているため、グラスゴー近郊のファスレーンにある英原子力潜水艦基地の撤去問題が浮上し、英国の核兵器保持の在り方が問われている。英政府は今後、コスト面からも核戦力縮小を検討せざるを得なくなっている。しかし、核兵器保有国であることは、国連安保理常任理事国や北大西洋条約機構(NATO)の主要メンバーとしての英国の国際的位置付けに大きく関係しているため、軍事的観点からのみならず総合的観点から熟慮すべきだとの提言がなされている。
英国はイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドという四つの主権を持たない国(カントリー)の連合体であり、連合王国として立憲君主制国家を形成しているが、ブレア労働党政権時代の1999年にスコットランド、ウェールズ、北アイルランドに対して外交・防衛、租税などを除く権限移譲政策が実行され、それぞれ自治政府が発足した。今回、独立投票が否決されても、スコットランドの自治拡大の流れは抑えられず、自治政府の権限強化が一層進められる見込みだ。
保守党のキャメロン首相、労働党のミリバンド党首、自由民主党のクレッグ党首など主要政党指導者は5日に共同宣言書を発表し、スコットランド議会に対して財政と社会保障の分野での権限拡大を約束した。地域分権化の流れはスコットランドに対してだけでなく、今後ウェールズでも強まると予想されている。さらに、イングランドでも自治権限の要求が高まる可能性があり、英議会での地域別議員数の是正(スコットランド出身議員を減らす)、イングランド議会の創設などが議論されている。そうなると、これまでの連合王国の枠組みはもはや維持できないことになる。
SNPはスコットランド独立後のビジョンとして、欧州連合(EU)への加盟、北欧諸国のように非核国家としてNATO加盟を希望しているが、こうした動きは欧州における主権国家の在り方を再考する契機を与えている。近代の国民国家(主権、国土、国民を有する)は戦争や革命の結果として成立したケースがほとんどであり、平和時に民主的プロセスを経て独立したケースは少ない。最近では93年1月1日にチェコとスロバキアが連邦を解消して分離独立した例があるが、EU統合化が進展する中で加盟国内での分離独立の政治的手続きはスコットランドが初のケースとなる。
もしスコットランドが独立することができたならば、EU内のその他の分離独立を求めている地域、スペインのカタルーニャ、ベルギー北部のフレーミッシュ、イタリア北部地域などでも同様な動きが出てくることになる。既存国家内でのこうした民族自決主義の動きは主権国家の統合化を目指しているEUとは逆方向だ。EUはスコットランドの独立運動を静観しているが、スコットランドがEU加盟申請をした場合の対処法は提示していない。逆に独立を目指す地域は、EU加盟国になることによって共同市場と共通通貨の恩恵を受けて主権国家として存立できる見込みが強くなる。スコットランド独立問題は主権国家の在り方に新たな課題を投じている。