同性愛者歌手がオーストリア凱旋公演

欧州に“ブルスト現象”、「寛容」に「退廃」潜む

 デンマークの首都コペンハーゲンで10日開催された欧州の歌の祭典ユーロビジョン・ソング・コンテストで、オーストリア代表のコンチタ・ブルスト氏(25)が優勝して以来、同国では同氏の話題で持ち切りだ。18日にはファイマン首相がブルスト氏を連邦首相府に招き、連邦首相府前で凱旋(がいせん)コンサートを開いたばかりだ。音楽の都ウィーンを中心に席巻する“ブルスト現象”について緊急報告する。
(ウィーン・小川 敏)

反発強める保護者ら

露大統領側近「低俗」

エイズ啓発名目

800

ブルスト氏の写真を1面で掲載するオーストリア日刊紙

 同性愛者であり、女性として振る舞い、生活している一方(夫である男性と住んでいる)、顎髭(あごひげ)を付ける奇抜な姿でユーロビジョンを制したブルスト氏はその後、ヌード姿をメディアに流すなど、同性愛者としてメディアの寵児(ちょうじ)となっている。

 そのブルスト氏を歓迎する欧州国民の反応を見て、ロシアの民族主義者、ウラジーミル・ジリノフスキー氏は「欧州は終わった」とつぶやいたという。換言すれば、2000年のキリスト教文化の結集でもある欧州文化が越えてはならない一線を越えてしまったという指摘かもしれない。

 独週刊誌シュピーゲル最新号はブルスト氏の登場を単なる同性愛者歌手の凱旋という次元ではなく、社会現象として報道している。同誌は「ブルスト氏を応援する人々は欧州文化の寛容さを意味し、没落ではないと受け止めているが、欧州では寛容と退廃(デカダン)は常に結び付いてきた」と述べている。

 18日の連邦首相府のブルスト氏の優勝歓迎会には本人だけではなく、オーストリア各地から同性愛者の俳優や関係者が連邦首相府に結集した。

 ところでウクライナ危機は、同国が欧州統合に参画するか、ロシアとの共存を図るかの路線問題が直接の契機だったが、問題は、ウクライナ国民が統合を願う欧州のアイデンティティー、価値観とは何か、という素朴な問い掛けだ。ウクライナ国民はブルスト氏を寛容さで包み込む欧州文化の一員となりたいのか、それとも単なる経済的恩恵を享受したいだけなのだろうか。

 ブルスト氏の勝利に歓喜する人々の姿を見た初老のウクライナ人が「これではっきりとした。われわれはロシアと統合する」と叫んでいる姿がテレビ画面に映っていた。

 ロシアのプーチン大統領の最側近、ロシア鉄道総裁のウラジーミル・ヤクニン氏はブルスト氏の登場を「低俗な民族的ファシズム」「欧州文化の没落」とデカダン的な西欧を論評している(シュピーゲル誌)。

 今月末にはライブ舞踏会が開催される。ライブ舞踏会はエイズ感染者への偏見をなくし、エイズへの理解を深めていく目的で発足した。だが、そのポスターには性転換した有名なモデルのヌードが描かれているなど、エイズ対策というより、同性愛促進を目的としているのではないか、と錯覚を覚えるほどだ。

 「気分が悪くなった」「考えられない」「自分の子供には見せたくない」と、子供を持つ親たちがライブ舞踏会のポスターを見て怒る。それに対し、ライブ舞踏会を支援するウィーン市関係者は「ウィーンは芸術に対して世界一寛容な都市です」と弁明している。

 ユーロビジョンで優勝したブルスト氏は世界各地で引っ張りだこだ。BBCや米国からのインタビューで飛び回っている。一方、ライブ舞踏会は同性愛を鼓舞するようなポスターをウィーン市内の至る所に貼っている。音楽の都ウィーンは同性愛者に占拠された感じだ。

 それに対し、多くの市民は「寛容さ」という言葉の魔力に惑わされ、少数派の同性愛者の言動に踊らされている。

 参考までに、「ブルスト」という名は芸名だ。その独語の意味は「何でも同じさ、変わらない」といった意味がある。「自分は男性でも女性でもない、第三の性だ。性別は問題ではない」といったかなり強烈なメッセージが含まれている。本来、大きな問題だが、それを意図的に「何も問題ではない」と言いふらしているのだ。