EUの歴史的重要性説く、英議会で独首相スピーチ

英国内の離脱論にくぎ

 メルケル独首相は27日、歴代3人目の独首脳として英議会でスピーチを行い、欧州連合(EU)プロジェクトの歴史的重要性を説くとともに、英国が主要メンバーとしてEU改革に貢献するように呼び掛けた。現在の英独蜜月関係の上に立って、英国のEU離脱論にくぎを刺した形となった。(ロンドン・行天慎二)

蜜月関係を象徴

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2月27日、英議会で演説するドイツのメルケル首相!ロンドン(EPA=時事)

 メルケル首相は英上下両院合同セッションで最高待遇で迎えられ、かつてレーガン元米大統領、ゴルバチョフ元ソ連大統領、マンデラ元南アフリカ大統領などが受けたのと同等の扱いを受けた。英国にとってEUの経済大国ドイツは重要な貿易相手国(輸入先で第1位、輸出先では第2位)になっている上に、英国の対EU関係の行方を左右するキー・パートナーになっているからだ。

 英国では保守層が国家主権擁護の立場からEU離脱論を主張しており、キャメロン首相はEU残留か離脱かを問う国民投票を2017年末までに実施すると公約している。同首相はEU残留選択を国民に説得するためには、加盟国主権を守るEU改革が絶対必要だと考えており、ドイツをはじめとして他の加盟国からの協力を求めている。メルケル首相は、社会福祉受給目的のEU内移民問題、欧州機構による企業活動の画一的規制などに関して英政府の立場に同調する立場を示しているが、統合化に逆行するEU基本条約の改訂にまで踏み込む考えはないことを示唆している。

 メルケル首相はスピーチでまず欧州の現代史を踏まえながら、EUの存在意義を改めて英国民に訴えた。同首相は「欧州の統一は半世紀以上も平和と自由と福祉をもたらしており、独仏友好から始まって今日の欧州連合の28加盟国の協調に至るまで振り返れば奇跡のように思われる」と語り、また「私たちは、少数の人が秘密外交で欧州の運命をもはや決定するのではなく、28の加盟国が全て同等の権利を持ち、欧州機構と協力しながら市民の福祉のために欧州を形成する政治的秩序の中で暮らしていることに感謝する。欧州の統一とともに、血なまぐさい対決と悲しい歴史から教訓を得ている。一緒になって私たちは欧州を良い方へ変えた」と述べた。

 ドイツ再統一と東欧革命を体験してきたメルケル首相は、EU統合化プロセスは欧州の運命を担っており、EUを離れてドイツは存在し得ないと認識している。それ故に、英国に対しても国家レベルの利害に固執するのではなくEUの中で共にEU全体の改革に向けて協力しようと呼び掛けた。「EUの将来の発展像の詳細は異なるかもしれないが、ドイツと英国は強くて競争力ある、結束したEUの目標を共有している。連帯し決意すれば、世界の中で欧州の経済社会モデルを擁護できるし、われわれの価値と利益を生むことができる、世界の他の地域のモデルであり得る。……この目標達成のためにEUの中で強い声を持った強い英国を必要としている。全ての利益のために私たちは必要な変更を達成できる」と訴えた。

 メルケル首相との首脳会談後に開かれた共同記者会見で、キャメロン首相は「よりオープンで外側を向き、柔軟で競争力のあるEU」を作ることでは英独両国は完全に一致しており、そのためにEU改革を協力して進めることができると述べた。経済改革に関する限り、英独の協力関係は今後とも強まるだろう。ただ、英国がEUをあくまでも単一共同市場と見なしているのに対して、ドイツはEU加盟国は政治的社会的なコミットメントも必要だと考えているので全面的な協力関係にまで発展することは困難だとみられている。

 英独は第1次、第2次の両世界大戦で戦い、敵対するライバル国家だったが、今日その敵対関係はほとんどなくなっている。むしろ、最新の世論調査結果では、ドイツに対して英国民は59%の人が良い感情を持ち、悪い感情を持つのはわずか9%。欧州諸国の中で重要視しているのはドイツがトップで44%、2位フランスの11%を大きく上回っている。両国の経済関係強化は欧州とEUの行方を左右するほど重要になっており、メルケル首相の今回の訪英は英独両国の蜜月関係を象徴すると言ってもよい。