ギリシャ最大のピレウス港、中国が戦略拠点化着々


 中国とギリシャは11月中旬、中国国有企業の海運最大手COSCO(中国遠洋海運集団)がギリシャ最大の港であるピレウス港に6億ユーロ(約720億円)の新たな投資計画を推進することで合意した。ピレウス港はユーラシア経済圏構築を目指す中国の国策「一帯一路」の陸路と海路の結節点に当たる要衝の地。その戦略拠点化に警戒が必要だ。
(池永達夫)

コンテナ・ミサイルで基地化も

 ギリシャでは今年7月の総選挙で、急進左派連合のチプラス政権が退陣、中道右派の新民主主義党(ND)政権が誕生したばかりで、これまでの親中路線が継続されるか注目されていた。11月11日、ミツォタキス首相はアテネを訪問した習近平国家主席と会談。結果は中国の札束攻勢に弱いギリシャの実態だった。

ピレウス港

ピレウス港(池永達夫撮影)

 そもそも中国がピレウス港に手を伸ばしてきたのは10年ほど前のことだった。

 この時、ギリシャが無計画な公共事業やバラマキ行政によって深刻な財政赤字を招いていたことから、EU(欧州連合)がギリシャ救済の条件として国家財産の売却を求めた。それに飛びついたのが中国だった。COSCOは2009年、三つのピレウス・コンテナターミナル運営権を28億ユーロ(約3260億円)で入手、16年には満を持して同港全体を買収した。11人いた「ピレウス港湾公社」(PPA)の取締役会から7人のギリシャ人が去り、新たに同数の中国人役員が着任している。

 ピレウス港のコンテナ取扱量は10年の68万5000TEU(20フィートコンテナの単位)から昨年には440万TEUと6・4倍にまで伸びた。当面の目標は上限の620万TEUだ。

ミツォタキス首相(左)と習近平国家主席

11日、ギリシャ最大のピレウス港を訪れたミツォタキス首相(左)と中国の習近平国家主席(AFP時事)

 PPA本部にはギリシャ国旗と並び五星紅旗がはためき、目の前の港湾にはレール上を移動する橋脚型の巨大ガントリークレーンがうなりを上げる。

 パルテノン神殿と同じように白の大理石を敷き詰めた社屋には、万里の長城の写真が掲げられている。習近平国家主席が6年前に打ち出した国策「一帯一路」が万里の長城に匹敵する歴史的な大事業であることを彷彿(ほうふつ)させる。

 なお懸念されるのは、中国がピレウス港を物流拠点としてだけではなく、軍事的拠点としての布石も打っていることだ。

 ギリシャのチプラス前政権は3年前、ピレウス港への中国軍艦寄港を認め、チプラス前首相自ら艦上式典に臨んでいる。

 中国とすれば、中東や北アフリカなどへの海軍の活動範囲を広げることを念頭に、軍事拠点を確保する狙いがある。

 米国防総省筋は今春、中国人民解放軍がコンテナ・ミサイルを製造している事実を明らかにした。中国がコンテナから発射する新型の長距離巡航ミサイルを製造、国外の商業港がミサイル基地となる可能性が出てくることに警鐘を鳴らしたのだ。

 また、このコンテナ・ミサイルに電磁パルス(EMP)弾頭を搭載することで、中国から核ミサイルを発射することなく、米軍の電子機器無力化の可能性を指摘する軍事専門家もいる。

 欧州におけるCOSCOの港湾投資はギリシャのほか、イタリアのトリエステ港やヴァード・リーグレ港、ベルギーのゼーブルッヘ港やアントワープ港、スペインのバレンシア港やビルバオ港、さらに、オランダのロッテルダム港などと手を広げている。

 今回、イギリスで発覚したコンテナを利用した不法入国問題も深刻な問題だが、よりシリアスな問題は安全保障問題だ。

 拓殖大学海外事情研究所の渋谷司教授は「『一帯一路』の真の目的は海洋覇権掌握」とズバリ指摘する。中国が海外拠点構築を推進するコンテナ港湾が、21世紀の「トロイの木馬」になるリスクが存在する。