ポピュリズム強まる政治

日韓国交正常化50年 識者に聞く(4)

元駐広島韓国総領事 許徳行氏(中)

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 ――反日政策を意識的に導入した盧武鉉政権から今日まで韓国の歴代大統領はポピュリズム(大衆迎合主義)的だという指摘があるが。

 大統領個人の資質の問題というよりは、韓国民主主義の発展プロセスと関係しているとみるべきだろう。まだ軍事独裁主義が終わって二十数年しか経過していない。欧米政治にもポピュリズムはあるが、例えばドイツの場合、市民社会の成熟度が高く、そういう政治家は落選させる。韓国有権者がもっとポピュリズム政治を排撃できるなら韓日関係も反日感情にこれほど左右されなくなるだろう。過去の問題があっても未来志向的に交流しようという機運が生まれるはずだ。

 ――2012年に李明博大統領(当時)が竹島に上陸したり、天皇陛下に謝罪を求める発言をしたことが、日本人の嫌韓感情に火をつけた。

 韓国人としては「韓国領に韓国大統領が行って何が悪いのか」となりがちだが、韓日関係をよく知る人たちはみな間違った選択だと考えた。

 歴史的、地理的に韓国固有の領土だとする独島(竹島の韓国名)に対する韓国外交方針は以前から変わらず、日本が何を言ってきても静かに断固として韓国の立場を明らかにするというものだったが、李大統領の独島訪問はその外交方針から逸脱したものだった。

 韓国大統領が実際に独島に行くことで日本を刺激し、反発を買った。韓国領であるということがさらに固まったわけでもない。国内世論的には評価されたが、日本国民の対韓好感度は低下した。解決できない問題、特に難しいといわれる領土問題を蒸し返して、それまで積み上げてきた各種交流の努力が水泡に帰すような結果を招いた。独島訪問に対する“成績表”は悪いということだ。

 韓国に対する日本の認識がこれほどまで悪くなった今の状況で、韓国がどうやって過去史に関する謝罪などを日本から引き出せるというのか。

 ――朴大統領は日韓首脳会談の前提条件にいわゆる従軍慰安婦問題での日本側の善処を挙げている

 まずこの問題を当為性の問題として見るなら、日本軍がある意味での強制性をもって慰安婦を動員したというのは事実だろうから、これ自体を否定すれば国際社会から非難される素地がある。この部分で安倍首相が何かしら決断を下すなら立派な指導者として評価されるだろう。

 一方、朴大統領も慰安婦問題を前提条件のようにせず、安倍首相と無条件に会わなければならない。韓日両国の間には慰安婦問題だけがあるのではない。慰安婦は限定的な問題にすぎず、経済をはじめ協力すべきことがあまりにも多い。優先順位を混同している今の状態は望ましくない。今まで会うことすらできていないこと自体が、韓国にとって外交的に大きな失敗だ。

 ――65年の日韓基本条約などで韓国は日本に対する請求権を放棄。しかし、日本側は人道的次元でアジア女性基金を通じこの問題で誠意を見せようとしたが、韓国側にはこうした努力が十分伝わっていないのではないか。

 日本に文句を言ったり、朴大統領が日本との首脳会談に条件をつけたりすることを全面的に支持する人は韓国国内でも一部だ。謝罪や補償を繰り返し要求する韓国に疲れ、もう韓国には関心を払わない方がいいという日本の主張も、一部保守派の人たちだろう。

 両国の政治指導者には、もう少し国内政治の影響を受けないようにし、外交的側面で度量のある戦略を選択することを期待したい。

(聞き手=清州(韓国中部)・上田勇実)