対日外交は原則より国益重視で

日韓国交正常化50年 識者に聞く(3)

元駐広島韓国総領事 許徳行氏(上)

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 ホ・ドッケン 1955年生まれ。ソウル大学卒。外交官試験に合格後、外交部入り。駐タイ参事官、駐横浜領事、駐ギリシア公使、駐マレーシア公使、駐広島総領事などを歴任。海外赴任は20年以上。現在、忠清北道で地方自治体レベルの外交関係を担当する「国際関係大使」。

 ――日韓国交からの50年を振り返ると、両国関係は山あり谷ありだった。どう評価するか。

 韓国側としては過去清算で満足したとは言えなかったが、光復(日本植民地統治からの解放)後20年間、ずっとできなかった国交正常化が朴正煕大統領(当時)の政治的決断によって実現したのは大きな成果だった。両国関係には、金大中氏拉致事件や大統領夫人を暗殺した文世光事件などショッキングな出来事もあったが、国益を重視して問題収拾に当たった。

 1998年には金大中大統領が小渕恵三首相と21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ宣言をし、過去よりも未来志向的な方向で青写真を描き、国内の政治・世論と外交を分離した。その後、両国関係は日本の韓流ブームにみられるように画期的発展を遂げた。

 一方で2000年以降、中国の台頭や韓日間の経済格差縮小など北東アジア情勢が大きく変化し、韓日両国とも国内政治の事情が重なり、韓日関係の良好な雰囲気が変わっていった。

 ――日韓関係では何よりも国益重視がカギということか。

 国交正常化当時、韓国は経済成長を急がなければならず、安全保障でも日本を必要としていた。未来志向を強調した金大中大統領の場合も、国民の対日感情は決して良かったわけではないが、就任直前にあったアジア金融危機を克服する必要などもあって、日本国民が受け入れやすいメッセージを発信した。

 その結果、日本の韓国に対する偏見は薄れていき、キムチをはじめ食文化の普及にもつながっていった。民間レベルの草の根交流や地方自治体間の交流も活発に行われ、北東アジア時代が進行していることを実感できるようになった。

 ――近年の日韓関係悪化は双方の国内政治の影響を受けているといわれる。

 韓国は高度経済成長期が過ぎ、低成長時代に突入した。日本の「失われた20年」の初期段階にも似ている状況になりつつあるとの見方もある。 貧富の格差は広がり、大卒の就職難が続くなど社会不安が増幅している。

 政治は、まず国益を考えるというよりも大衆に迎合するポピュリズム政治に変質している。社会福祉政策一つ見ても緻密な計算に基づいた政策ではなく、選挙用のバラマキ政策が目立つようになった。

 対日関係も国内政治の延長線上で語られるようになり、国益よりも国民感情に配慮するようになってしまった。慰安婦問題や教科書問題など歴史認識において専門家や公務員たちが頭をひねって解決策を模索しようとしても、政治が予め「方向」を決めてしまうので、やりようがない。

 一方、日本も高齢化社会や長く続いたデフレなどでかつての全盛期のような世界のリーダーではなくなりつつある。以前は韓国側が少々無理な要求をしてもそれを受け入れる度量の大きさのようなものがあったが、近年はそんな余裕すら持てない印象を受ける。

 結局、近年の関係悪化は両国政治指導者たちのリーダーシップに問題があることが最も大きな原因と言え、いずれ朴槿恵大統領、安倍晋三首相に対し、それぞれ自国世論が審判を下す可能性すらある。

 ――朴政権発足後、初めて韓国外相が訪日し、両国首脳が日韓国交正常化50周年の相手国大使館主催行事に相互出席するなど改善の機運は見られるが、日韓首脳会談の開催は依然として不透明だ。

 韓国では、日本に対する期待よりも韓国政府の態度への批判が多かった。朴大統領の、慰安婦問題で進展がなければ首脳会談に応じないという原則主義的な外交姿勢に批判がある。外交は原則によって成り立つのではなく、国益に基づかなければならない。

(聞き手=清州〈韓国中部〉・上田勇実)