「もう一つの二酸化炭素問題」―海洋酸性化


地球環境を救え!

 大気中の二酸化炭素(CO2)濃度増加で海水が吸収することによって、海洋環境に発生している変化が「海洋酸性化」で、海水の酸性度は上昇しつつある。海水の酸性化は、生物の殻や骨格になっている炭酸カルシウム生成を強く妨害し、海の生物に影響を与えている。地球温暖化に加えて世界規模の環境負荷要因だ。

 2015年の国連持続可能な開発目標(SDGs)において、その影響に対処し最小限化することが、行動ターゲットの一つに位置付けられている。また「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第5次評価報告書では、二酸化炭素の排出抑制の対策が十分でなければ、海洋酸性化が海洋生態系に相当のリスクをもたらす可能性を指摘している。

 海洋酸性化の海洋生物などへの影響が懸念される一方、その把握が十分でない現状を踏まえ、科学研究の推進、関連する解析技術の開発を行うことや酸性化問題についての国民への啓発が急務だ。

国民への啓発 急務

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太平洋における酸性化度の分布の変動
赤道付近は“デッドライン”

 海水の酸性・アルカリ性を決めるのは、水素イオンと水酸イオンの量比で、pHという値が7の時が中性、それ以上がアルカリ性、以下が酸性となる。

 海水はもともと弱アルカリ性で、産業革命以前の海の平均的なpHは8・17程度だったが、現在の大気濃度380ppmでpHは既に8・06程度にまで低下した(相変わらずアルカリ性だが、より酸性の方に傾いている)。今後も表層海洋のpHは低下を続けると考えられる。水温の低い極域の海では海水のpHが7・84になるだけで、ある種の生物は炭酸カルシウムの殻をつくれなくなる。図から、既に赤道付近の一部の酸性度はその“デッドライン”を超えていることが分かる。亜熱帯域や亜寒帯域は赤道域よりも高いpHの値を示し、季節変動が大きいという特徴がある。

酸性化のメカニズム
大気のCO2増加で進行

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 二酸化炭素(CO2)は、海面を通じて大気と海洋の間で活発に出入りしている。海洋中に溶けた二酸化炭素は炭酸となる(式(1))。炭酸は、海洋中では水素イオンが解離した炭酸水素イオンや炭酸イオンとの間で、式(2)と式(3)で表わされる反応により化学平衡の状態を保っている。

 大気中の二酸化炭素が増えると、海水に溶け込む二酸化炭素も増え、式(1)と式(2)の反応が下に進んで、水素イオンが発生する。発生した水素イオンの大部分は式(3)の反応が進むことにより消費されるが、一部の進む水素イオンはそのまま残り、炭酸イオンが減少。結果として水素イオンが増加するためpHは下がる。