モリンガに込める地球再生の祈り
1年で3メートル成長「奇跡の木」
「怒りながら木を植えている人はいない。みんな、いい顔してるでしょう。木を植えることは、現実の1本と、心にもう1本、つまり2本植えているんですよ」
インドネシアで熱帯雨林の再生を進めているNPO法人アジア植林友好協会理事長・宮崎林司さんが、雑誌で対談した作家の故・立松和平さんの話だ。木を植えることで、自分の心にも良いものが残る。それを繰り返すことで、世の中が良くなっていく――――そんな内容だった。
熱帯雨林の破壊は大気中の二酸化炭素(CO2)を増やすだけでなく水蒸気を減らすので、水循環を不規則にし、異常気象の原因となる。
また、熱帯雨林には全生物種の約半分が生息しているので、生物多様性の喪失という人類の生存に関わる問題でもある。そこで宮崎さんが注目した植林の苗木に、奇跡の木と呼ばれる「モリンガ」がある。
モリンガは生命力が強く成長が非常に早い植物で、熱帯地方で1年間に3㍍以上伸びる。CO2をよく吸収し、葉・枝・幹・根・種、さらには花まで、すべてに利用価値のある“無駄のない”植物だ。
また、並外れた栄養素と薬用効果があり、全種類の必須アミノ酸、鉄分、ギャバ、各種ビタミン、カルシウム、ポリフェノールなど、人間が必要とする全ての栄養素をバランス良く含んでいる。
バリ島でモリンガの苗木を植える現地の高校生[/caption]
世界最古の伝承医学であるアーユルヴェーダでは、300種もの薬効効果があるとされ、モリンガのオイルを肌に塗り、モリンガのお茶を飲んで、その健康を保ったと言われる。今後、その薬効成分が近代薬学で利用されることが期待される。
モリンガは、気候変動に対し具体的な策を施すだけでなく、医療分野でも重宝され得る、まさに地球再生の願いを託された夢の木、生命の木である。宮崎さんはこれまでカリマンタンやバリ島で、モリンガの苗木約4千本を植えた。これが1万、100万、1千万となることを目指している。
(文=編集委員・片上晴彦、写真・小林久人)