映画「利休にたずねよ」
極上のエンターテインメント
千利休は「侘び茶」の完成者として後世に語り継がれ、さまざまな利休像が描かれてきた。原作者の山本兼一氏が主題にしたのは、利休の美に対する見識や独創性についてだ。
信長や秀吉さえ一目置いたその美意識は、いったいどのようにして芽生え、育まれていったのか、という問題である。
直木賞受賞作「利休にたずねよ」の映画化に当たって、原作者自らが「利休役にはこの人しかいない」とコールを送ったのは市川海老蔵である。利休の美への執心を、青年期の与四郎、壮年期の宗易、晩年の利休と、各世代ごとに、そしてその一貫性を魂を込めて演じている。
妻・宗恩は利休を広い心で包んで、ドラマに膨らみと気品を与えている。その役を演じた中谷美紀のもっともこだわったのが茶の稽古だった。
利休の設計した黄金の茶室、わずか二畳しかない茶室「待庵」、秀吉が威光を天下にしめしたという「北野大茶会」など、歴史上のさまざまな名場面が再現されていく。
それら究極の美を表現するために三井寺、大徳寺、神護寺、南禅寺、彦根城など、国宝級の建造物を舞台に撮影が行われ、さらには利休が使用したという長次郎作黒樂茶碗「万代屋黒」や、細部の小道具に至るまで名器の数々が使用されている。
物語は秀吉との関係を軸に、時間をさかのぼっていき、その出発点にあった高麗の女との恋物語までたどっていく。
監督の田中光敏、脚本の小松江里子ら、最高のスタッフにより、極上のエンターテインメントとして仕上がっている。
12月7日(土)全国公開。
(岳)