実れ!「復興ワイン」、観光活性化に期待


岩手・宮城の被災地、広がるブドウ栽培

実れ!「復興ワイン」、観光活性化に期待

仕込みの過程でワインが入ったタンクをのぞき込む「神田葡萄園」の熊谷晃弘代表=2015年12月12日、岩手県陸前高田市

 東日本大震災の被災地でワインを特産品に育てようとする動きが広がっている。岩手県沿岸では明治時代創業のブドウ園が自社醸造へ踏み出したほか、宮城県唯一のワイナリーが新たに開業。地元の食材と一緒に売り込むなど、ワインを通した地域の活性化に期待を寄せる。

 岩手県陸前高田市の「神田葡萄園」は1905年創業の老舗で、長く食用ブドウを栽培してきた。被災後の2012年からワイン用品種の栽培を始め、醸造免許を取得。初出荷に向け準備を進めている。熊谷晃弘代表(32)は「内陸に比べ夏が涼しく、ブドウ本来の酸味がしっかり残る」と話す。地元の海産物と一緒に楽しむワインをコンセプトにするという。

 震災では、ブドウ畑を津波が襲い、植えたばかりの苗木は全滅。工場や直売所も被災した。熊谷さんは「津波で流された高田の松原は元に戻らないが、ワイン造りが地域に広がって観光の活性化につながれば」と期待する。

 異業種からの転向組もいる。同県大船渡市の及川武宏さん(36)は東京のコンサル会社で働き、震災後は被災地の子供を支援する財団法人に転職。14年、家族で同市に戻り、白ワイン用の2品種約600本を育てる。醸造所も新設予定だ。及川さんは、ニュージーランドのワイナリーで働いた経験から、ワインは人の交流を生み出すツールになると実感。「地域の将来を担う子供たちが異文化に触れる機会をつくりたい」と話す。

 三陸沿岸でワイン用のブドウ栽培が盛んになったのはここ数年という。岩手県農業研究センター果樹研究室の佐々木真人室長は「品種改良や栽培技術の普及で、三陸の多湿な気候でも育てやすくなった」と説明する。

 仙台市では昨年12月、宮城県唯一のワイナリー「秋保ワイナリー」がオープンした。運営する仙台秋保醸造所の毛利親房代表(47)は「ワインで宮城の復興、地方創生を応援したい」と意気込む。

 現在は山形県や山梨県からブドウを仕入れてワインを製造しているが、今年からは自社の畑で採れたブドウでの生産も始める。秋保地区は風通しや水はけなど栽培の条件がいいという。

 同社は宮城県南三陸町産のリンゴなどが原料のシードルも製造。一緒に南三陸のカキをPRできるようにするなど、沿岸部や県内各地の生産者らと連携する。「被災3県が中心となって、東北のワインツーリズムをやりたい」と毛利さん。観光資源となり、大きな経済効果も望める。このため、将来的にはワイン製造の技術者も育成したいという。