故戸塚洋二さん、実験グループの不屈のリーダー


梶田さんノーベル賞、「存命なら共同受賞」の声

故戸塚洋二さん、実験グループの不屈のリーダー

素粒子ニュートリノの実験グループを率いた故戸塚洋二さん(妻裕子さん提供)

 ノーベル物理学賞を受賞する梶田隆章・東京大宇宙線研究所長(56)は素粒子ニュートリノに質量があることを証明し、宇宙成り立ちの謎を解く手掛かりをつかんだ。梶田さんらの実験グループを情熱とリーダーシップで率いた戸塚洋二・東大特別栄誉教授は、がんを患い2008年に66歳でこの世を去った。関係者は戸塚さんが存命なら共同受賞していたと口をそろえ、「生きていれば」と惜しんだ。

 戸塚さんは、岐阜県飛騨市の神岡鉱山地下にあるニュートリノ観測施設のリーダーを、小柴昌俊・東大特別栄誉教授(89)02年ノーベル物理学賞受賞から引き継ぎ、120人の実験グループを率いた。梶田さんは大気ニュートリノの解析を担当。戸塚さんが存命なら共同受賞しただろうと、梶田さんも話す。

 東大空手部出身。率直で厳しい物言いの「鬼軍曹」だったが、戸塚さんの妻裕子さん(71)は「厳しい言葉の中に思いやりがあった」と振り返る。

 リーダーシップが最も発揮されたのが、01年に観測施設スーパーカミオカンデの機器の多くが壊れた大事故の対応。チームの一員だった中畑雅行東大教授(56)は「もう復活できない」と感じたが、戸塚さんは「何があってもやり切る」と宣言。1年後の復旧にこぎ着けた。

 事故の前年、がんの手術を受けていた。体を心配し、作業から離れるよう求めた裕子さんに、戸塚さんは「このままでは後に続く人に渡せない」と声を荒らげた。

 中畑さんは「生きて共同受賞していれば」と惜しむ。裕子さんは今回のノーベル賞授賞式への出席を梶田さんに勧められたが、日本で見守ることにした。亡き夫を思い、「受賞を知れば、うれしかっただろう」とほほ笑んだ。

 授賞式はストックホルムで10日夕(日本時間11日未明)に行われる。