文化功労者、水木しげるさんが93歳で死去


「死」通して「生」を描く、明るくユーモアに満ちた作品

文化功労者、水木しげるさんが93歳で死去

文化功労者に選ばれ、喜びを語った漫画家の水木しげるさん=2010年10月25日、東京都調布市

 水木しげるさんは自称「妖怪研究家」。妖怪は目に見えないけれど存在する、漆黒の闇に、かすかにともる火の先に-。古来、人はその気配を感じ取ってきたのに、こうこうと照らす現代の明かりが妖怪を殺したというのが持論だった。

 そう思うに至ったきっかけの一つは、幼い頃「のんのんばあ」と慕ったお手伝いの女性から多くの妖怪の名を教わったこと。風呂に忍び込む「あかなめ」や、夜道で足音を立てて付いて来る「べとべとさん」などが多感な少年の心に刻まれた。

 水木作品は「死」を通して「生」を考え、表現した。しかし「死」を象徴する異界のものたちは、決して恐ろしくはなかった。彼らを身近な存在として取り込み、その視点から映し出された世界は、明るくユーモアに満ちている。

 自ら生み出した妖怪たちの中で一番気に入っているのはねずみ男、とも話した。人をだますし、仲間の妖怪も裏切る。ある意味、最も人間くさい妖怪。水木ワールドは異形のものたちの姿を借りて人間そのものを描いた。