映画「ベトナムの風に吹かれて」


異国で老母を介護する

映画「ベトナムの風に吹かれて」

ハノイで日本語を教えるみさお(左、松坂慶子)と母親のシズエ(草村礼子)

 ベトナムのハノイは経済成長期を迎えつつある大都会だが、車やバイクに交じって輪タクが走り、老人は路地で将棋をして時を過ごしている。「気は優しくて、力持ち」という古い日本にあった心意気が今も息づいている街だ。

 映画のもとになったのはハノイ在住の小松みゆきさんが綴った『ベトナムの風に吹かれて』(角川文庫)。ベトナムと新潟県の山村を舞台にした両国の合作映画で、ベトナム人と日本人との交流が感動的に描かれている。

 主人公の佐生みさお(松坂慶子)は離婚後、あこがれのベトナムに移住して、ハノイで日本語教師として働いている。住まいは小さな劇場の隣のマンションで、近所の人たちと家族のように付き合っている。

 そこへ伝えられたのは故郷で暮らしている父の訃報。新潟の田舎に帰ると母のシズエ(草村礼子)は父の死さえ分からないほどの認知症。兄の反対を押し切って、みさおは母をハノイに連れてくるのだ。

 母は次々事件を起こすが、人情深い異国の人々に触れて笑顔を取り戻す。そんなある日、みさおは青春時代の旧友小泉と再会し、旧交を温めるが、小泉がアルバイトで始めた輪タクに母が乗せてもらっていた時、事故を起こし、母は大ケガをする。加重する介護にみさおは悲鳴をあげる……。

 劇中劇があり、浦島伝説が語られ、大東亜戦争の記憶が呼び起こされ、と多彩な要素を盛り込みつつ、第二の青春の素晴らしさを描き出す。監督は大森一樹。(岳)