ドキュメンタリー映画「ダライ・ラマ14世」


心の平和を求めてきたチベット文化

ドキュメンタリー映画「ダライ・ラマ14世」

日本人との交流はユーモアにあふれていた=©Buenosfilm

 この映画はノーベル平和賞を受賞したダライ・ラマ14世のドキュメンタリー作品。製作のきっかけは1991年に写真家の薄井大還がダラムサラで撮影する機会があったことだ。その16年後の07年から彼は息子の一議とともに公式に撮影を担当することになる。

 08年には日本の街角で質問を募って法王へ投げかけ、またチベット亡命政権のあるインドのダラムサラに取材に行き、09年と2010年にはチベット国境近くの町ラダックへロケを敢行。五体投地の映像を記録するためだった。

 そうした膨大な記録をもとに、吉田裕プロデューサーと光石富士朗監督を迎え、追加取材や編集作業を行ってできたのがこの作品だ。

 法王の生い立ちから、中国とチベットの関係まで紹介されるが、映像で見せてくれるのは、公の場や指導者としての姿ではなく、お茶を飲みながらくつろいでいる普段の法王だ。冗談が大好きで、ユーモアにあふれ、時には大声で笑う。講演会で日本の質問者に的確に慈悲深く答える様子も強く印象に残る。

 多角的に映像が重ねられていくが、対照的に浮かび上がってくるのは、心の平和を基礎に教育を受けているチベットの子供たちの明るい表情と、物質文化に溺(おぼ)れて希望を見いだせないでいる日本の若者の表情だ。

 厳しい大自然の中で行う五体投地の新年行事と、日本の金融市場の場面も対照的。法王の日本へのメッセージが伝わってくる映画である。(岳)