映画「ゆずり葉の頃」、主演は八千草薫


76歳の中みね子さん初監督作品、全て“生”映像の意欲作

映画「ゆずり葉の頃」、主演は八千草薫

国際的な画家となった宮謙一郎(仲代達矢)と彼の絵を思い続けた市子(八千草薫)=©岡本みね子事務所

 少女の頃、淡い恋心を抱いた人はパリへ旅立ち、いまでは国際的に高名な画家となっていた。そんな彼の個展が日本で開かれることを知り、東京から秋深まる軽井沢へと足を運ぶ。一枚の思い出の絵を求めて。

 故岡本喜八監督の夫人中みね子(岡本みね子)さんが76歳にして挑んだ初監督作品。CGなどを使わず、全て“生”の映像という意欲作だ。

 主演の小河市子を八千草薫、母を優しく見守る息子進を風間トオル、市子が想いをはせる画家宮謙一郎を仲代達矢が演じている。市子を宮に会わせるきっかけとなる喫茶店のマスターは岸部一徳。そのほか竹下景子、六平直政、嶋田久作、本田博太郎と実力派俳優が脇を固める。また、音楽は国際派ジャズピアニスト山下洋輔が担当。

 物語の鍵となる劇中画は東京藝術大学大学院教授で美術界の重鎮宮★正明画伯が描き下ろしの作品を提供。監督は八千草が着る着物に至るまで本物にこだわった。昨年、モスクワ国際映画祭で招待作品として上映された際、かつての名作日本映画の趣を彷彿(ほうふつ)とさせると観客から話題となった。

 作品全般を通して、激しいものはなく、ただゆったりとした時が流れていく。物語を優しく情緒的で柔らかい風が吹き抜けていく。川面の波紋と音楽もよく調和していて、宮と市子が出会って会話する光景もつつましく、年を重ねた2人が来し方を振り返る。安らかなひと時をもたらしてくれる作品だ。(佐野富成)

★=廻の回の中の口を目