谷崎潤一郎の「創作ノート」を新たに発見
「春琴抄」から「細雪」まで
近代日本を代表する文豪、谷崎潤一郎(1886~1965年)の創作ノートを撮影した印画紙が新たに見つかったと、中央公論新社が2日発表した。「春琴抄」から「細雪(ささめゆき)」に至る円熟期の創作過程がうかがえ、今後の研究に影響を与えそうだ。
印画紙は縦16センチ、横23センチほどで計255枚。1933年2月ごろから38年半ばに書かれたとみられる。冒頭は「春琴抄」(33年発表)のメモで、筋書きを「春琴九才ノトキ失明ス」「三十七ノトキ災難に遭ふ」と箇条書きで記述。他に「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」や未発表作の構想も含まれている。
「細雪」(43年連載開始)については、当初題名に「三寒四温」を考えていたことを明示。
谷崎の創作ノートは、「続松の木影(こかげ)」と題された1冊から始まる10編が確認されていた。今回のノートは「続」の冒頭と切れ目なくつながり、これに先立つ「松の木影」と思われる。
これら印画紙は戦時中、空襲を心配した谷崎が撮影し、親友の笹沼源之助に預けた。92年に笹沼家が印画紙を同社に提供、保存された。
編集委員を務める千葉俊二早稲田大教授は「谷崎の頭の中を直接のぞくようで、作品の成立過程が新たに分かる。第一級の資料だ」と話した。