映画「鳥の道を越えて」
渡り鳥がつくった森の道
作品の舞台になっているのは岐阜県東白川村。美濃地方の東部で、緩やかな山々に囲まれ、人々は平地で作物を育て、林業、炭焼き、狩猟などで生活を営んできた。
伝統文化の記録に携わってきた今井友樹監督は、この土地の出身者で、祖父から、かつて故郷の空が渡り鳥の大群で埋め尽くされたという話を聞く。そこは”鳥の道”となっていて、猟師たちはカスミ網猟によって鳥を捕まえ、商い、食べたりしていたという。
それは昭和22年に禁止されたが、「祖父の見た光景を見てみたい」という願いから、今井監督は、その猟に携わった祖父の世代の人々を訪ねて歩き、記憶を引き出す。そして今もカスミ網を使って鳥を捕まえているという、福井県にある織田山鳥類観測一級ステーションを知る。
この作品は今井監督自らが聞き手になって、鳥とカスミ網の全貌を描いたドキュメンタリー。
同ステーションで行われていたのは、環境省から公益法人山階鳥類研究所に委託された標識調査。調査は個体識別のために鳥に足環(あしわ)を付けて放ち、再捕獲によって情報を収集し解析する。
ツグミ、アトリ、ヒワなどの渡り鳥がなぜ減少してしまったのか。山階鳥類研究所の佐藤文男氏によると、鳥は木の実をついばみ、排泄(はいせつ)して南に向かう。その実が森をつくり、鳥の道になっていたのだ。だが戦後、伐採と植林で、鳥の道は絶たれる。自然と人との関係を考えさせる映画だ。(岳)