農業生物研、「クモ糸」で紡ぐカイコの実用化
手術用の縫合糸や防護服など特殊素材への応用も
遺伝子組み換えにより、強くて切れにくいクモ糸の特性を併せ持った絹糸を紡ぐカイコの実用品種化に成功したと、農業生物資源研究所(茨城県つくば市)が27日発表した。大量生産が可能で、手術用の縫合糸や絹糸の燃えにくさを生かした防護服など特殊素材への活用も期待される。
同研究所の桑名芳彦主任研究員によると、一般に出回っているカイコで成功したのは世界初という。論文は同日、米科学誌プロスワン電子版に掲載された。
これまでも小型の実験用カイコで同様の絹糸を作らせる試みはあったが、糸の量が少なく質も悪かった。桑名研究員のグループは、オニグモの縦糸を作る遺伝子とカイコの遺伝子をつなぎ合わせ、カイコの卵に注入。成虫が吐き出す「クモ糸シルク」は通常の絹糸に比べ1・5倍強靱(きょうじん)になった。
現在と同じ工程で織物に加工でき、養蚕農家の新たな設備投資などは不要という。現段階で、クモ糸シルクに占めるクモの遺伝子由来のタンパク質の量は0・4~0・6%だが、割合を増やせばさらに強い糸ができる。
同研究所は、養蚕農家で遺伝子組み換えカイコを飼育するための試験研究の準備を進めており、将来的に企業との連携も視野に入れているという。