欧州最貧国モルドバに難民殺到、増大する負担
ウクライナ支援 「限界」 と危機感も、 支援を国際社会に訴え
ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナ南西に隣接する小国モルドバに人口の1割を超える35万人以上の難民が押し寄せている。モルドバは欧州最貧国の一つ。隣国の危機に際し、官民挙げて支援に取り組むが、戦争が長引くにつれ負担は増大。対応の「限界」は近いと危機感を募らせている。
モルドバの首都キシニョフにあるエキシビションセンター。現在は難民の収容施設となっており、主に女性や子供が数百人滞在する。薄いパネルで仕切られた小部屋には簡易ベッドと棚が置かれるのみ。トイレやシャワーは共同。廊下には洗濯物が干され、狭い空きスペースが子供の遊び場として利用されている。
ゲナディさん(48)一家は数日前にウクライナ南部オデッサから到着。ロシア軍のオデッサ爆撃が近いと聞き、妻と娘を連れて逃げてきた。「ここは警報音が聞こえず、爆撃の心配もなく、安心できる。快適だ」と笑顔を見せる。ただ故郷にいる親戚や友人のことが気掛かりだ。戦争が終わるまでとどまるつもりだが、「2週間か、1カ月先までなのか分からない」と顔を曇らせた。
ボランティアの高校生アイリンさん(16)によると、2週間前は収容人数を大きく上回り、「混雑して大変な状況だった」。今はある程度落ち着いているものの、オデッサ攻撃が始まれば、さらなる難民の流入が見込まれ、対応が困難になる恐れもある。「社会に貢献したい」とボランティアを志願したアイリンさんは、放課後毎日ここに駆け付け、子供の世話などの手伝いをしているという。
同センターの運営主体はキシニョフ市だが、戦争の長期化で支援対象や範囲が広がり、財政や社会インフラの負担が増大している。アイリンさんのようなボランティアなしでは活動も難しい。市内の公共施設は難民用に使われ、部屋を提供するホテルや民家も多い。市民は人助けに奔走する一方、今後自らの生活に深刻な影響が及びかねないことも懸念している。
モルドバのポペスク外相は英メディアとのインタビューで、国境を越えて来る全員が国内にとどまるわけでないとしながらも、「国家規模と経済状況を鑑みれば、わが国がウクライナの最も脆弱(ぜいじゃく)な隣国だ」と指摘。「(ロシア軍の攻撃の)前線がこちらに近づけばわれわれへの(社会・経済的)圧力も劇的に増す」とし、多数の難民を受け入れる周辺国への支援強化を国際社会に訴えた。(キシニョフ〈モルドバ〉時事)