プーチン露大統領、「情報戦」で現状変更を狙う


ウクライナ侵攻を開始、「クリミア併合」の成功体験に酔う

プーチン露大統領、「情報戦」で現状変更を狙う

24日、爆撃を受けたウクライナ東部ハリコフ近郊で、損壊した建物の前で座り込む男性(AFP時事)

 ロシアは帝国の復活を企図していない-。こう述べていたプーチン大統領は24日早朝、国民向けの演説で、同じスラブ民族が暮らす旧ソ連ウクライナでの軍事作戦を発表した。国営メディアが「東部住民がウクライナ軍に攻撃された」と報じ、情報戦で混乱する中での侵攻。「住民が虐殺されている」という口実をロシア国民がどれほど支持しているかも怪しい。ソ連崩壊から30年。力によって現状の変更を試みるロシアは「大国」たり得るのだろうか。

◇ 異様な歴史観

 「革命家レーニンがウクライナを建設した」。プーチン氏は21日の国民向け演説で、隣国の存在そのものに疑問を呈した。ウクライナではソ連の歴史観からの脱却が進むが、ロシア帝国の版図からウクライナが生まれたのも、ソ連崩壊で独立できたのも、ソ連のおかげだと皮肉った。

 執務室から約1時間にわたり、一方的な「ウクライナ論」を展開する異様な演説。かつてソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼んだプーチン氏は、2014年にウクライナ南部クリミア半島併合の成功体験に酔い、エスカレートしているかのようだ。

 先に公開された21日の安全保障会議も政権内の動揺を示唆した。最側近のナルイシキン対外情報局(SVR)長官が「私は…」と独立支持の回答に窮すると、プーチン氏は「はっきり答えて」と一喝。指導力を見せつけたつもりだろうが、イエスマンを演じる閣僚らの顔は暗かった。

◇ コロナ禍での決断

 プーチン氏は24日の演説で「ウクライナは占領しない」とうそぶいたが、東部は独立承認しており、実効支配を進めてもウクライナではないという立場。原則合意していた米露首脳会談もほごにしたプーチン氏の発言は、国際社会で信用されなくなっている。

 東部には14年からロシア軍が居座っており、法的観点を除けば現状は変わらない。だが、ロシアに有利とされた紛争解決のためのミンスク合意を破棄してまで独立承認に踏み切った。日米欧が制裁を発動し、新型コロナウイルス禍にあえぐロシア経済の疲弊も必至だ。メリットが見込まれなくても、心情的に得たいものがあるのだろう。制裁も「暴走」に歯止めをかけるには至らず、プーチン氏に平和を求める声は届いていない。

◇ ロシア国民に訴え

 ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、ロシア国民向けに演説し、プーチン氏からの「ネオナチ」とのレッテル貼りに関して「(独ソ戦で)800万の命を失ったウクライナ人がどうしてナチスを支持するのか」と反論。ロシア国民による戦争阻止を「信じている」と訴えていた。

 軍事行動の契機となった親ロシア派の独立承認を、ロシア国民は支持しているのか。政府系世論調査では「73%」なのに対し、独立系世論調査は「45%」。プーチン政権がプロパガンダで国内を引き締める中、同じスラブ民族の「兄弟国」の紛争は、両国民に難題を突き付けている。

 「経済や価格上昇、無法状態といった現実問題から国民の関心をそらすのが狙いだ」。ロシアで収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は、1979年のアフガニスタン侵攻にも重ね合わせ、プーチン氏を痛烈に批判した。(時事)