耳の聞こえない家族に届く少女の歌声


映画「コーダ あいのうた」、主演ルビー役にエミリア

耳の聞こえない家族に届く少女の歌声

聴覚障害を持ちながら家族で漁業を営むロッシ家 ©2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

 “コーダ”とは、耳の聞こえない親を持つ健聴者のこと。「Children of Deaf Adults」の頭文字を取った言葉で、両親とも聞こえない、片親だけなど背景はさまざまだが、1980年代の米国から広まった概念だ。

 ルビー・ロッシ(エミリア・ジョーンズ)は、米国の小さな港町で家業の漁を手伝う高校生。幼い頃から、耳の聞こえない両親と兄の手話通訳者として、人々との橋渡しをしてきた。夜明けから船に乗り、父フランク(トロイ・コッツァー)と母ジャッキー(マーリー・マトリン)の病院に付き添ったり、兄レオ(ダニエル・デユラント)とは手話でからかい合ったりする毎日。ロッシ家は固い絆で結ばれている。

 高校では新学期が始まり、クラブ活動の選択をすることに。密(ひそ)かに思いを寄せていたマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)と同じ合唱部を選んだルビー。初日の発声練習で緊張のあまり逃げ出してしまう。後で謝罪に訪れると、顧問のV先生(エウヘニオ・デルベス)は、ルビーの歌の才能を見抜き、名門バークリー音楽大学を目指すマイルズと秋のコンサートでデュエット曲を歌うよう言い渡す。ルビーの家で練習する2人だったが、マイルズはロッシ家での出来事をルビーを「魚臭い」とバカにしていた同級生らに話してしまう。

 フランス映画のリメイク版でもある本作。カギとなる手話は、英語の直訳とは違うアメリカ手話(ASL)にもこだわった。流暢(りゅうちょう)な手話と豊かな歌唱力が求められるルビー役には、「次のエマ・ワトソン」と評されるエミリアが挑戦。ほかにアカデミー賞女優マーリーをはじめとする聴覚障害を持つ俳優陣が周りを固める。聞こえない家族たちがルビーの歌を感じるシーン、時折組み込まれた静寂を通じて、「音は耳だけで感じるものではない」ことを教えてくれる感動作。

 全国公開中。PG12指定。

(辻本奈緒子)